はじめまして!オレンチと申します。
この記事ではド派手なスタントで映画ファンを魅了してやまない『ミッション:インポッシブル』シリーズについて、マニアックな視点から独自に分析した内容をお届けします。
次に『ミッション:インポッシブル』シリーズを見るときにもっと楽しくなるかもですし、新しい気づきの助けになるかもしれません。
いつもとはちょっと違う
一歩づつ確実に成長を遂げてきたシリーズ
人気TVドラマシリーズ『スパイ大作戦』のリメイクとして1997年に封切りされた『ミッション:インポッシブル』シリーズ(以下、『ミッション』シリーズ)。以来26年間(2023年現在)で7つの作品を公開しており、さらに2024年には第8作目の『ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング PART2』が控えています。
映画史に名を残す大ヒットシリーズであり、トム・クルーズの代表作でもある『ミッション』シリーズですが、他の長寿シリーズ(『ワイルド・スピード』『007』『インディ・ジョーンズ』など)と一線を画する点があります。
それは主演のトム・クルーズがプロデューサーも務めているという点。
8作以上続いたシリーズで、プロデューサーと主演が全て同じ作品は映画史上おそらく初めて。そもそも『ミッション:インポッシブル』(97)はトム・クルーズが初めてプロデューサーを務めた作品なので、思い入れの強さも相当なものだったのでしょう。
『トップガン』(86)のBlu-rayに収録された特典映像を見ると、トム・クルーズは映画作りに対して並々ならぬ情熱を燃やしていたことが伺えます。
シリーズ制作における最大の特徴と言えるのが、作品が変わるごとに監督を変えていたという点。これは意図的なもので、毎回異なった視点を加えることで、シリーズがマンネリ化することを避けた狙いがあります。
そういった狙いのもとで4作目まで監督を変え続けてきた『ミッション』シリーズでしたが、5作目から先はクリストファー・マッカリーが監督を続投。
クリストファー・マッカリーは5作目の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の時点でトム・クルーズとは8度目のタッグ(脚本での参加などを含む)であり、フィーリングが非常に合ったことは間違い無いと思いますが、5作目を迎えて『ミッション』シリーズがある意味で完成形に到達したからという理由もあるはず。
というのも本シリーズは1作を経るたびに確実に成長を遂げているシリーズだからです。
シリーズにノースタントのDNAを植え込んだ『ミッション2』
では『ミッション』シリーズはどのように成長を遂げてきたのでしょうか。
ブライアン・デ・パルマによってスタートした『ミッション:インポッシブル』(97)はTVシリーズに倣い、往年のスパイ・サスペンスのようなテイストによって【スパイ映画】として王道を歩みました。
しかし2作目の『ミッション:インポッシブル2』(00)では、ジョン・ウーを監督に迎えることでその作風を大きく変えてきました。シリーズとしてはケレン味の強い内容であることから、何かと揶揄されがちな『ミッション2』ですが、個人的に『ミッション』シリーズとしてはとても重要なDNAを提供しているように思えます。
なぜなら『ミッション2』から明らかに過激なノースタントアクションが増加しており、『ミッション』シリーズにおけるアクションやノースタントの方向性を決定づけた作品に思えるからです。
冒頭のロッククライミングシーンは地上600mの断崖絶壁で実際にトム・クルーズがクライミングしており、崖と崖の間を飛ぶジャンプシーンも本人が挑んでいます。見せ場次第では『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』におけるブルジュ・ハリファよりもアイコニックなシーンになっていたかもしれません。
今となってはカーチェイスよりもバイクチェイスのイメージが強いイーサン・ハントですが、バイクチェイスに挑んだのも『ミッション2』から。
しかも元はカーチェイスだったシーンを、ジョン・ウーの提案によってバイクチェイスに変更したという経緯があります。
コミカルな魅力
続く『ミッション:インポッシブル3』では『エイリアス』でスパイドラマをプロデュースしていたJ・J・エイブラムスを発掘し、長編映画初監督に大抜擢。
1作目のサスペンスと2作目のアクションに加えイーサン・ハントの私生活を描くことで人間味を与え、よりキャラクターを魅力ある人物へと作り上げていきました。
また『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』には『アイアン・ジャイアント』や『Mr.インクレディブル』などアニメ畑出身のブラッド・バードを監督に迎え、シリーズにマンガっぽさを上手く取り込んだように感じます。
とりわけ顕著なのは節々のセリフに感じられ、例えば冒頭でイーサン・ハントの「点火しろ!」という掛け声と共にオープニングが始まります。
中の世界の視点で見ると、単に爆弾の導火線へ点火の指示を出しただけですが、外の世界──、つまり観客から観るとオープニングの開始──、つまり映画が始まることを観客へメタフィクション的に伝えているわけです。
導火線の動きと共にハイライトを見せるオープニングは本シリーズにおける開幕を示すようなもので、トム・クルーズの号令によって映画が開幕すると言う演出はファンにとって最高に”アガる”演出と言っても過言ではないと思います。
アニメらしさをシリーズに取り入れたことでコミカルさが生まれ、より多くの人が観やすい形に昇華されています。トム・クルーズというフィルムメーカーは、少しでも多くの人に楽しんでもらえるような映画づくりを目指しているということを強く感じますね。
そんなコミカルさをシリーズに上手く潜り込ませたのがサイモン・ペッグの存在で、イーサンとベンジー(サイモン・ペッグ)の掛け合いはどの作品を見ても面白く、このスタイルはこの後のシリーズにも語り継がれるようになります。
チームプレイの魅力
さらに『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』あたりから、明らかにチームプレイを意識した作劇へと変化していきます。
そもそも『ミッション』シリーズはトムのノースタントと、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のチームプレイという2本の柱が最大の魅力で、この柱が他のスパイ映画とは一線を画する点。
一匹狼のジェームズ・ボンドに対し、チームプレイのイーサン・ハントといった感じですね。
1作目からチームプレイのスタイルは変わらず保ってきてはいたのですが、『ミッション3』あたりからジュリア(ミシェル・モナハン)存在感やベンジー(サイモン・ペッグ)の登場など、作品間の”繋がり”が現れ出します。
繋がりは信頼を生み、信頼は良きチームプレイを引き出します。シリーズに【信頼】を大切にしていることは『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の音声解説へ如実に現れており、イーサン、ルーサー、ベンジーのファーストルックのシーンに信頼感を感じられなかったため、改めて撮り直したという経緯をトム本人が語っていました。
そんな信頼の感覚は『ゴースト・プロトコル』で練り上げられ、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』で完成形へと作り上げられていきます。
『ローグ・ネイション』以前もチームでミッションに挑んできた姿勢はありましたが、最終的に物語を完結させるのはトム・クルーズのワンマンショーでした。
チームプレイとはチームで1つのことを成し遂げることであり、『ローグ・ネイション』と『フォールアウト』のみ、最後の瞬間に全員で立ち会う形が取られているんです。
このラストの瞬間こそチームプレイの魅力を最大限に引き出した演出であり、シリーズ最大の魅力と言えるでしょう。
本作のチームプレイについて、トム・クルーズは映画作りをモチーフにしているようで、ともすると『ミッション』という位シリーズはトム・クルーズの自伝的なシリーズへとパラダイムシフトしているのかもしれませんね。
『ローグ・ネイション』以降の作劇方法
トム・クルーズがクリストファー・マッカリーとフィーリングが合ったと前述しましたが、二人の制作過程はかなり変わった手法が取られています。
というのも撮影開始時はほとんど脚本が決まっておらず、撮影していく中で物語を固めていったそうで、特にレベッカ・ファーガソン演じるイルサ・ファウストはシリーズ初登場のキャラクターですが、レベッカ・ファーガソンが演じる姿を見てからキャラクターの人となりを肉付けしていったというから驚きです。
かつてモダンホラー小説の巨匠スティーヴン・キングが「小説を書いていると、いつの間にかキャラクターが勝手に動き出す」と語っていましたが、『ミッション』シリーズにも同じような現象が起きていたのでしょう。
このような物語制作の手法の場合、登場人物の行動原理が至極自然になります。結末に向かって肉付けしていく脚本の場合、物語の作り手は登場人物を結末へと誘導しなくてはならなく、その結果登場人物がとても不自然な行動をとってしまうことがしばしばあります。
このように感じたとき【登場人物が脚本に操られている】と表現していますが、二人のような物語制作の手法の場合、【登場人物が脚本に操られている】ような状態には陥らないでしょう。
そんな物語はより真実味が強くなります。
つまり『ミッション』シリーズとは、作り手さえも登場人物の行動が予測不能なシリーズだということですね。
かつてフィルムメーカーによって作り出されたイーサン・ハントという人物は、その元を離れ、自らの意思で物語を広げ続けている。
そう思うと、とても味わい深いシリーズに見えてきます。
ノースタントの魅力
『ミッション』シリーズの魅力を支えるもう一つの柱。それはもちろんトム・クルーズによる目を疑うようなノースタントの数々。
地上600mの断崖絶壁で岩から岩へ飛び移ってみたり、世界一高いビル・ブルジュ・ハリファをよじ登ってみたり、時速400kmの軍用機の外にしがみついて空を飛んでみたり、飛んでいるヘリコプターを生身でハイジャックしてみたりと、自分の限界を毎度塗り替えてくる姿に驚かされるばかりです。
本作のメガホンをとった監督たちは口を揃えて「トムと仕事をするのは大変だ」と言います。
しかし実は誰よりも安全に厳しいのはトム・クルーズ本人で、安全が確信できない限りは絶対にスタントには挑まないと言います。その証拠に『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でHALO降下(約1万m上空の高高度から飛び降り、地面ギリギリでパラシュートを開く降下方法。敵に潜入を気づかれない利点がある)を行いますが、半年以上の訓練を経てから撮影に挑んでいるんです。
さらに共演のレベッカ・ファーガソンなどが危険なシーンを監督に依頼された時は、反対する姿勢を見せたりと人一倍、安全に気を遣っていることがよくわかります。
パンデミック真っ只中で『ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング PART1』の撮影している最中、感染を防ぐためのプロトコルを守らなかったスタッフに対して激怒している音声も有名ですよね。
なぜ安全第一のトム・クルーズが、あそこまで限界を超えたスタントに挑むのか。それは「映画をより良いものにしたい」という至極単純な理由からなんです。
トム・クルーズは「観客が映画を楽しめるためにスタントに挑戦している」と語ります。これは『トップガン』や『オブリビオン』など、彼が出演した様々な作品の特典映像から確認できたもので、トム・クルーズにとっての映画作りの信念みたいなものなのでしょう。
またトム自らスタントに挑むことで、映画のアクションに強い真実味を与えていますよね。
トム・クルーズにとって『ミッション』シリーズとは
トム・クルーズにとって『ミッション:インポッシブル』シリーズとは何なのか、彼のそばで一緒に映画作りをしてきたスタッフはこう語ります。
「トム・クルーズにとって『ミッション:インポッシブル』シリーズとは息子のようなものだ」
本シリーズはプロデューサー(トム・クルーズ)は変わらないまま、作品を追うごとに監督は変えることで、その監督の良い部分だけ次に繋げてきたシリーズです。成長していく中で学びを得る先生が変わってきたイメージですね。
そんな息子である『ミッション』シリーズを最前線で成長させてきたトム・クルーズは、先日80歳で自身のアイコンであるインディ・ジョーンズを演じたハリソン・フォードを見て、自分も80歳までイーサン・ハントを演じ続けると語ります。
きっとトム・クルーズなら、有言実行してくれることでしょう。
『ミッション:インポッシブル』シリーズの作品一覧と観るべき順番は次のとおりです。
観るべき順番については、公開順が絶対にベストです。なぜなら、劇中の時間が前後しようと映画は必ず公開された順番で作られているからです。劇中の時間が前後しようが、現実世界の時間は一方通行ですよね。
「前作よりも、もっと良くしよう。」「こんな遊び心を入れたら面白いかも。」といったような作り手たちの想いは前作から次作へと受け継がれているわけです。これを感じ取れるのは公開順でしかあり得ません。
というわけでこれから『ミッション:インポッシブル』シリーズを観てみたい!という人は、ぜひ公開順でトライしてみてくださいね!