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【ネタバレあり】『ザ・ファイター』感想:─ホンモノの登場人物達─

「ボクサーはリングに人生を持ち込む」
──デヴィット・O・ラッセル(映画監督)

お疲れ様です!オレンチ(@1080Buttobi)です!

ゆる~くデヴィット・O・ラッセル縛りでラッセルの作家性を探る旅をしています。

世界に一つのプレイブック』『スリー・キングス』に続き今回の『ザ・ファイター』で三作目となりました。

ちなみに公開順などは深く意識してません。

ラッセル監督としては『ハッカビーズ』から実に6年ぶり。何で6年も空いてしまったか真偽のほどはわかりませんが、エキストラにブチ切れたり主演俳優と殴りあったりとやりたい放題で「ハリウッドの問題児」という烙印を押される始末。

多分干されてたんでしょう。

今回はそんなラッセル監督がカムバックを果たした『ザ・ファイター』をとりあげます!

ブルーレイに収録されている特典映像や音声解説を駆使し、感想やら解説やらいってみま~す。

ミッキー・ウォードとディッキー・エクランド

本作は実在するボクサー、ミッキー・ウォードの人生の一部を描いた作品。

ミッキー・ウォード。

知っている人は知っているけど、ミッキー・ウォードを有名にしたのはアルツロ・ガッティ戦です。

ミッキー・ウォードとアルツロ・ガッティは3度の激戦を繰り広げ、いづれも世紀の試合と呼ばれる熱戦となりました。

当然古くからミッキー・ウォードを知るファンは、彼の映画化を聞いてガッティ戦が再現されることを心待ちにしたことでしょう。

しかしふたを開けてみたらどうでしょう。たった一度、ガッティの名前が出てくるだけで、試合はおろかガッティが登場することはありませんでした。

アルツロ・ガッティ(左)とミッキー・ウォード(右)

物語はホームビデオ風に撮影されたクリスチャン・ベール演じるディッキー・エクランドと、マーク・ウォールバーグ演じるミッキー・ウォードの2ショットから幕を開けます。

ちなみにこのファーストシーンとラストシーンは対になっていますが、同日の早朝に片手間で撮影されたもの。

早朝にアドリブで涙を流すクリスチャン・ベールすげぇw

ファーストシーンの2ショットに続くのは、2人の地元ローウェルを2人で回り、2人を中心にとらえたまま街並みがよく見えるローアングルでズームアウトしていくシーケンスです。

ディッキーとミッキーの物語だということはこの流れで明白ですが、露骨に街並みを見せながらタイトルコールしているところを見ると、ローウェルという町自体が主役として表現されていると言えるのではないでしょうか。

とりわけディッキーとローウェルの関係は重要で、なぜかと言えばディッキーにおける本作の解決すべき葛藤は《ローウェルの誇りという過去の栄光》だからです。

さらに次々とディッキーとミッキーの物語に参加するのが、クセが強すぎる2人の家族とミッキーの恋人シャーリーン(エイミー・アダムス)。

若さといい、露出度といい、マイフェイバリットエイミー・アダムスなわけですが、彼女が登場したことで物語の原動力が固まります。

露出度高めのエイミー、マジ最高。

本作の原動力は、

  • ディッキーが《ローウェルの誇りという過去の栄光》とどう向き合うか
  • ミッキーとシャーリーン、二人のロマンスとミッキーの家族愛との対立関係

です。

とりわけ家族愛については比重が大きく、誰がどう見てもロクデナシのディッキーが母アリスと共に車内で歌うシーンは、家族の絆の深さが表現されていて素晴らしいですね。

このシーンはラッセル監督以外は反対だったそうですが「絶対に必要!」ということで押し切ったそうな。ラッセル大正解だったね!

ミッキーを家族の元から離したいシャーリーンとそれに反発するアリスと姉妹。ならばと立ち上がったのがディッキーで、金を作ってミッキーをトレーニングに専念させると約束しますが、お金のために動いたのがねずみ講と美人局。さらに警官に暴行を加えたことで実刑をくらいついにミッキーは家族と決別します。

ディッキーは実際には8年の実刑だったらしいよ。

すると事態は好転しミッキーは順調に勝利を重ねますが、ディッキーが出所しジムに現れると現場は最悪のムードに。

ここからの展開が本作最大の見どころとなるわけですが、注目してほしいのは以下2点。

  • ミッキーが今まで黙っていた想いを吐き出す。
  • ローウェルの誇りと書かれたケーキ

ボクシングジムで主要な登場人物全員で討論になるとミッキーがついに想いを爆発。「みんな一緒に応援してほしいんじゃ!」と叫びます。

シャーリーンとオキーフはこれに気を悪くして、離れて行ってしまうのですがミッキーの本音に心を動かされたのは兄ディッキーでした。

ディッキーは何も語らず、ローウェルの誇りと書かれたケーキを持って、過去のたまり場へ向かい、ここにケーキを置き去ります。

このケーキをたまり場に置き去るシーンは、《ローウェルの誇り》というしがみついていた過去と決別したことを表現したシーンですね。

さらにその後、ミッキーが「兄貴はヒーローだ」と言うと、ディッキーが「”だった”だろ。」という最高にカッコいいセリフでも過去と決別したことがわかります。

こうしてミッキーの想い通り、家族、恋人、ミッキーを支える全ての人とタイトルマッチのリングへと向かっていくのです。

ボクシング映画の見どころはリングにあらず

ここまで僕は本作のことについて、ほとんどボクシングの話をしていないんですよ。

良く本作のレビュー記事で「ボクシング映画というよりホームドラマ」という感想を見たりしまうが、本作に限らずほぼすべてのボクシング映画がホームドラマなんですよ。

リベンジマッチ』というふざけたエキシビジョンマッチみたいな(本編もエキシビジョンマッチだった)映画は例外として、

ロッキー』だって『レイジング・ブル』だって『シンデレラマン』だって殴り合いがかっこ良いのではなく、何を背負って殴りあっているかがカッコいいのです。

ほとんどの場合、クライマックスのリングでは主人公が何を背負っているか明確にされています。

本作の場合、ミッキーを支える全ての人ですね。

クライマックスのリングまでに主人公が何を背負っているのかを明確にし、最後にこぶしで白黒つける─。

これがボクシング映画です。

背負っているものにたいしてリングでの目的が、最後までたっていることなのか・勝つことなのかは作品それぞれですが、ここに言葉はいらずとも伝わる─。

これがボクシング映画です。

なので本作にガッティ戦は蛇足そのもの。ミッキーの目的はガッティに勝つことではありません。

当然物語の大部分を占める背負っているものの提示までが作品の善し悪しを左右するわけですが、本作を良しとしているのは素晴らしい俳優陣に他ならないでしょう。

とりわけ名前が挙がるのがクリスチャン・ベールとメリッサ・レオですね。

メリッサ・レオ(左)。クリスチャン・ベール(右)

確かにこの二人の演技は完全に本人が憑依していてエキストラとして参加していた本人の知り合いですら間違えたほど。

特典映像を見るとよくわかるよ!

さらに似すぎて俳優そのものの個性が無くなってしまうことを懸念したラッセル監督が「もうちょっと抑えてください。」と言わせたほど本人にソックリだったみたいです。

これの正体は、本人でも気付いていないほど無意識でやっているクセの完コピです。

人間はだれしもその人にしかないクセを持っていて、お互いが無意識のうちにそのクセによってその人を認識しているのです。

ただ自分の個性を残したままミッキー・ウォードが抱える葛藤を表現したマーク・ウォールバーグもやっぱり良いです。

仕草は他の作品で見るマーク・ウォールバーグと大差はないですが、秘めている想いはしっかりと伝わってきます。

そもそもマークのミッキー・ウォードに対するあこがれから始まった企画ですしね。

実際の刑務所で行なったロケで、マーク・ウォールバーグのカッコいいエピソードがありまして。

マーク・ウォールバーグと言えば知る人ぞ知る元不良。不良というのがかわいいほど凶悪だったことで有名ですが、刑務所も経験しています。

実際に服役する人々に語る機会がったそうで、その時マークは、「早く出所しろ。早く出て正しい人と付き合え」と親身になって受刑者たちを励ましたそうです。

中には涙を流す受刑者もいて、ラッセル監督までもらい泣きしたんだとか。

それにしても、『魔法にかけられて』でエイミー・アダムスを認知した超ミーハーな僕ですが、当時どうせ一発屋のアイドル女優だと思っていたことを全力で謝罪します。なんでも調べてみたら『魔法にかけられて』よりも前に『junebug』で思いっきり脚光を浴びてるんですねー。

すげーみたいのに、日本でDVD化されておらず。。はよどこかしてくれー!

というかwikiを見ると受賞・ノミネートの数がすげぇ。ほぼ毎年ノミネートされていじゃないですか。彼女こそ時期メリル・ストリープなんじゃないかな。

ホンモノにこだわるラッセル監督

本作のほとんどがステディカムで撮影され、肩越しショットも多様され、ときにはハンディカムも使われています。

これが意味するところは、いづれも臨場感があらわすホンモノらしさだと思います。

さらに本作に登場するオキーフは実際にミッキーのセコンドを務めたオキーフ(つまり本人役)だし、ローウェルの町人のほとんどが実際にローウェルに住んでいてミッキー、ディッキーの顔見知りです。

つまりオキーフと町の人々は本人に出演してもらったということ!

思えば『スリー・キングス』では本当に湾岸戦争を経験したイラク人をエキストラに迎え、『世界に一つのプレイブック』では躁鬱を抱える息子を出演させていました。

出来る限り生にこだわる。これがラッセル監督なのでしょう。

POSTED COMMENT

  1. やなぎや より:

    オレンチさん、こんにちは!ラッセル監督観てますね。好きな俳優女優ばかりなのに、この映画知りませんでしたー。エイミー・アダムズ
    私も好きです。

    「ボクシング映画のみどころはリングでない」がいいですね!挙げられていたように、まさに『ロッキー』が負け犬と復活の人生を描いたものですからね!あと、撮影裏話をまったく調べないわたしには勉強になります。

    • deguchi1103 より:

      やなぎやさん!コメントありがとうございます!

      『世界に一つのプレイブック』がキッカケで見漁ってます笑
      『ロッキー』はなんなら俳優業をボクシングに着せ替えた実話ですしね!

      勉強というより豆知識程度ですが、少しでもお役に立ててたら嬉しいです!

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