オレンチ
はじめまして!オレンチと申します!
今回は日本が世界に誇る巨匠、黒澤明監督作品から『どですかでん』について書いていこうと思います。
早速ですが、以下目次からどうぞ!
『影武者』の基本情報
- 1980年/日本
- 黒澤明監督
- 中代達也
あらすじ
戦国時代。甲斐の武田信玄が「我もし死すとも3年は喪を秘せ」との遺言を残してこの世を去った。弟の武田信廉ら重臣たちは、織田信長や徳川家康が放った間者の目を欺き、「信玄死す」との噂を打ち消すため、信玄と瓜二つの盗人を影武者に仕立て上げる。(U-NEXTより)
ネタバレ感想・解説・考察
本作『影武者』(80)は黒澤明初のフルカラーで制作された時代劇である。とは言ったものの『どですかでん』(75)以降の黒澤明監督作はすべて「黒澤明初のフルカラーで製作された◯◯」になってしまうんだけど。
ただ元々は画家志望だった黒澤明は、衣装やセットなどほとんど自分で、スケッチして製作担当に作らせており、本作も例外ではない。
本作で武田信玄を始め、織田信長や徳川家康といった名将たちが身につけている甲冑は、すべて黒澤明が現存する資料を元に自分でスケッチしたものなのだ。
つまり黒澤明がデザインした甲冑が、本作で初めてカラーとしてスクリーンの前に現れたと言える。
そう考えるとやはり、黒澤明初のフルカラーで製作された時代劇というのは感慨深い。
『影武者』(80)といえば、その後に製作される『乱』(85)の予算が足りなかったため、『影武者』(80)で大量に作成した甲冑やセットを使い回すために製作された。
言わば『乱』(80)の準備的な作品として有名なわけだが、実際に本編を鑑賞してみると、「準備ってなんだろう?」と概念を覆すほどのスケールのデカさに驚かされる。
黒澤作品の中では180分と長尺よりに分類されるが、『赤ひげ』(65)や『七人の侍』(54)のようにインターミッションは無い。
インターミッションとは、映画のちょうど中盤あたりに挿入される休憩時間のこと。
一昔前の映画で、180分を超えるような長尺の映画にはたびたび挿入された。
『ベン・ハー』『サウンド・オブ・ミュージック』など。
スケールがデカいとは言ったものの、ほとんどのシーンは城内の会話劇になっており、合戦シーンは決して多いとは言えないが、それでもインパクトは半端じゃない。
というのも本作の合戦シーンには500〜1,000人ほどのエキストラが導入されているのである。
さらに馬は、130頭も同じ場所に集められている。
あまりにもエキストラの数が多過ぎたため、応募者の中から若手精鋭を選び、分隊長として軍を指揮する武者訓練を行なった。
分隊長は鎧の付け方、わらじの履き方、槍の持ち方、歩き方などを覚え、何も知らないエキストラに対し、1人で30人くらい受け持って訓練して行ったのである。
もはやただの軍隊である。
この若手精鋭たちが、1人で30人ほど受け持って訓練したことにちなんで、彼らは「三十騎の会」と呼ばれるようになった。
「三十騎の会」は本作以後も黒澤組へ協力することになる。
クライマックスの織田軍との合戦で、大量の騎馬隊が織田軍に突入していくシーンは未来永劫”圧巻”のいきを出ることはないだろう。
この騎馬隊の突入シーンは、右から左に流れる動きのある横構図のシーンだが、奥行きも突入する馬で埋め尽くされているのだ。(時間で170分前付近)
今ならCGによって、前後の人と馬を追加処理するようなシーンだが、『影武者』(80)の時代はまだCGといった技術は発展していない。
例えば『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズにも馬で突入するようなシーンが多々あるが、かなりの人数をCGでかさ増しされている。
『ワンダーウーマン』の冒頭でアマゾネスたちが海岸で戦うシーンも映像データを何度も重ね合わせることでやはりかさ増ししているのだ。
それらに比べると『影武者』(80)はガチである。
前述したようにまだ時代に技術が追いついていない。
そのため時代が「これはガチ」と囁いてくるのだ。
ガチの美学はすごい。
なんつったって、実写なのだから衰えようが無いのだ。
もっと遡るとジョン・フォードの『駅馬車』(39)も同じようにガチと囁いてくる。
『駅馬車』(39)のクライマックスで、伝説のスタントマンが疾走する駅馬車の真下を潜るシーンは何度見ても「バカなのか(褒めてる)」と感じるのだ。
ゆえにCGで何でもできてしまうこの時代で、実写を貫くクリストファー・ノーランは偉いのだった。
さらに『影武者』(80)で驚いたのが、騎馬隊が突入した直後のシーンだ。
決死の突入も虚しく騎馬隊は壊滅状態になってしまい、なんとも哀愁漂うショットが続くのだが、どう見てもここで横たわっている馬が生物なのだ。
確実に生きた馬を使っている・・・。なんなら横たわりながら足をバタバタと動かしている。
ちょうど転ぶ瞬間を捉えたショットだってある。
まさか本当に馬を殺めたんじゃ・・・?と感じてしまうほどリアルなシーンなのだ。
ちなみに正解は、130頭の馬へ一気に麻酔を注射して撮影したらしい。
麻酔は30分程度しか効果がなく、10人くらいの麻酔士を用意し1人10頭くらいの計算で打って行ったそう。馬が転んで怪我をしないように、地面にも準備を施したので、かなり緊張感のあった撮影だったそうな。
そのためか、「長過ぎ」感がいなめないほど、たっぷりと武田軍の”敗北”が映し出されていた。
余談だが、黒澤監督のガチをもう一つ。
『蜘蛛巣城』(57)で三船敏郎を目掛けて大量の矢が射抜かれるシーンがあるが、あの矢はガチで競技用のものが使われている。
矢と着弾点にテグスを張り、確実にそこに命中するような仕掛けになっているが、当の三船敏郎は生きた心地がしなかったと語っている。
最後に本作『影武者』(80)で織田信長を演じた隆大輔と、徳川家康を演じた油井昌由樹は、当時超がつくほどの戸新人だった。