はじめまして!オレンチと申します。
今回は映画の見方がちょっと変わるかもしれない【エスタブリッシング・ショット】についてお話していきます。
エスタブリッシング・ショットとはシーンのロケーションを観客に伝えるショットのことで基本的にはシーンの冒頭に挿入されます。ある程度大きな被写体を画角に収める必要があるので、ロングショットであることがほとんどです。
例えば『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』ではアベンジャーズタワーの全体像を写したエスタブリッシング・ショットの後で、アベンジャーズたちが集まっているシーンが始まります。
そうすることで彼らがどこで集まっているのか文章で説明されなくても理解できる構成になっています。
様々なエスタブリッシング・ショットのサイズ
エスタブリッシング・ショットは建物に限らず、様々なサイズで利用されます。
最もよく見るのが前述した『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』や『シャイニング』のように建造物を収めたショット。
もう少しサイズを大きくすると、都市の有名なランドマークを空撮したようなショットもエスタブリッシング・ショットになります。
例えば凱旋門のショットがあれば、その後のシーンはパリであることがわかりますし、
ビック・ベンのショットがあれば、その後のシーンはロンドンであることがわかります。
さらにスペースオペラのようなSF映画では最も大きいサイズのエスタブリッシング・ショットを見ることができます。
惑星の全体を写したショットが挿入されることで、その後のシーンはどの星で起きているか理解できますよね。このようなショットのエスタブリッシング・ショットと言えるでしょう。
極小のエスタブリッシング・ショットの例も挙げてみましょう。例えば『ヘレディタリー/継承』にはミニチュアを写したショットがありますが、実はこちらもエスタブリッシング・ショットとして機能しているんです。
ミニチュアで家の中を見せることで、違和感なく間取りを把握することができますよね。空間の把握はホラーにつながります。なぜなら潜在意識の中で通常と異常の判断がしやすくなるからです。
エスタブリッシング・ショットが無いと・・・
もしエスタブリッシング・ショットがないと、そのシーンはとても窮屈で不安な感覚を与えます。ロケーションの切り替わりもわからないので、観客に混乱を生じさせ、物語をうまく伝えられない可能性もありますね。
もし窮屈な違和感を感じたら、エスタブリッシング・ショットが足りてないのかもしれません。
様々なエスタブリッシング・ショットの応用
そのシーンの冒頭に挿入することで、シーンは何処で起きている出来事なのかを伝えるエスタブリッシング・ショットですが、その効果を理解していれば応用することも可能です。
例えばエスタブリッシング・ショットが無いと窮屈な印象を与えると解説したばかりですが、その効果を逆手に取っているのが『ソウ』や『ルーム』といった「監禁」がテーマになっている映画です。
上記のような作品で、監禁されている建物のエスタブリッシング・ショットが挿入されてしまうと観客に安心を与えてしまい、たちまち緊張感を奪ってしまいます。
上記のような作品ではどのタイミングでエスタブリッシング・ショットが挿入されるのかにも注目しておきたいところですね。大体の場合、物語の方向性がガラリと変わる──例えばネタバラシが済んだ後などの──タイミングに挿入されますが、上手いフィルムメーカーだと、エスタブリッシング・ショットが与える安心感を『なんだネコか理論』に当てはめて、より強いショックを与えてきたりもするでしょう。
また前述した『シャイニング』では同じエスタブリッシング・ショットを何度も挿入することで、季節の変わりゆく様を表現したりもしています。
さらに伏線としてエスタブリッシング・ショットを利用した例もあって、『エスター』でそのような例を見ることができます。
コールマン一家の住む家が初めて映るシーンは、家をロングショットで捉えたエスタブリッシング・ショットから始まりますが、このエスタブリッシング・ショットは氷の張った池から見上げるように家を移します。
こうすることで、家と池との距離が非常に近いことを示しているのです。
映画を観た人なら、どんな伏線になっているかよくわかりますよね。