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【映画】『パーフェクション』解説ネタバレ感想・伏線・考察|細部にこそ張り巡らされた伏線と技術【評価】

オレンチ

はじめまして。オレンチと申します。

今回はお話しする映画は、NETFLIXで配信されているオリジナル映画『パーフェクション』です。

まず個人的なざっくりとした感想をいうと、洗練された大当たりの映画!と言った感じでした。そんなわけで今回は肯定的な内容が多いかと思います。

メガホンを取るのは『ドム・ヘミングウェイ』などのリチャード・シェパード。主演は『ゲット・アウト』のアリソン・ウィリアムズです。

というわけで以下目次より早速行ってみよう!

注意

この記事はネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『パーフェクション』のネタバレ感想・解説・考察

細部にこそ張り巡らされた伏線と技術

ネットフリックスの紹介文にもあるとおり、二転三転する物語から目が離せない今作。しかしそれ以上に各シーンに潜り込ませた小さなスリルと布石、それを観客の潜在意識にのみ語りかける絵作りにこそ、本作の凄みがあると思います。

オレンチ

ちなみに僕はスリラーだということさえ知らずに鑑賞したため、とてつもないスリルを感じ続けての鑑賞でした(笑

今回のレビューでは映画『パーフェクション』における小さなスリルと布石、潜在意識にのみ語りかける絵作りについてを中心にお話していこうと思います。神は細部に宿るですね。

まずアバンタイトルですが夢を捨て親の介護を選んだ少女が、たった一瞬の”叫びショット”が入るだけで、介護によって人生を奪われ、行き場のない不満を感じていることがよくわかります。この理解を助けている”叫びショット”は本当に一瞬なんですが、画面の構図は変わらずに椅子に座っている主人公の年齢だけ切り替わるので、同一人物であることは瞬時に理解できる本当に秀逸なショットだと思います。

さらにタイトルの”E”が180度反転する演出は、本作のラスト”デュエット”を暗示するものとなっていましたね。

さて、物語は上海へと足を進め、シャーロットはかつての恩師と自分とは別の愛弟子と相見えることとなりますね。このシーンは本作屈指の伏線と技術の詰まったシーンだと思うんです。

まず恩師とハグするシャーロットの腕に、さりげなくもはっきりと存在するリストカットの痕がありました。もしこの傷跡を目立たせたければ【ヒッチコックの法則】を使ったり、ショッキングなBGMを使ったりと観客の意識を傷跡に向けるような演出をします。

ヒッチコックの法則とは

ある物を超アップショットに撮ることで、今後の展開を予測させるショットのこと。例えばアクションシーンにおいて、揉み合いの末に転がったナイフを超アップショットで一瞬写すようなショットがありますよね。

往々にしてこのナイフは少し後のシーンで決定打になる場合が多いです。映画をよく見る人なら、ナイフのアップショットで「このナイフが危ない!」というサスペンスが生まれます。これがヒッチコックの法則です。

しかし本作の場合は特に変わった演出はありません。このさり気なさが逆に不気味さを放っているかと思います。もしかしたら本当に意味のないシーンなのでは?と思う人がいるかもしれませんが、もし普通にハグするなら手の甲が外側に向くはずですよね。というわけでリストカットの痕ショットは、あえてさり気なくすることで不気味さを演出した高度な演出だと言えそうです。

また映画ではかなり珍しいスプリットフィールドという撮影技術が使われていることも目を引きました。

アントンがシャーロットとリジーを初めて紹介するシーンがそれなのですが、シャーロットがリジーを見つめるシーンで、1つの画面に2つのフォーカスプレーンを持ったショットを見ることができます。どういうことかというと、1つの画面で異なる距離・異なる箇所の2つにピントが合っている状態です。

これは特殊なレンズを用いて撮影し、二つのフォーカスの間には独特な境界線が生まれます。多くの場合この境界線を隠すことで違和感を排除するのですが、本作の場合はあえて境界線を残すことで両者の間に緊迫した関係性があることを暗示しているのかと思います。

オレンチ

ほかにもスプリットフィールドを用いたシーンは本作で多く見ることができるので、再干渉の際はぜひ探してみてください。

そのあとでシャーロットにアントンがリジーを紹介するシーンも秀逸です。このシーンではシャーロットとリジーのショットが交互に挿入されますが、2つのショットを1枚につなぎ合わせるとシンメトリーな構図となり、両者の力が拮抗しているように感じさせます。

しかしこのシーンの真の目的は、シンメトリーな構図にした時に浮かび上がる中心にいる人物の本性を暗示すること。

シンメトリーな構図において中心にいる人物はアントンですよね。さらにここでのアントンはフォーカスの外に──つまりぼやけている状態にもかかわらず、セリフを発しているのはアントンだけなんです。

つまりシャーロットとリジーは、アントンの見えない悪意に支配されている(もしくは支配されていた)ことを暗示しているショットなのでした。

デュエットとセックス

さて上海でのシーンのラストを飾るのは、シャーロットとリジーのデュエットシーンですよね。

デュエットとセックスが混ざり合い、二人の感情が一体になって行く様を魅せた演出が秀逸でした。

オレンチ

個人的には本作で最も好きなシーンで、二人以上の人物が一体となって感情を爆発させるシーンが最高に好きなんですよ。

デュエットもセックスも二人の感情が一体となって初めて成立する行為であり、この二つは非常に似ています。さらに一人は弦を弾く指をルプソワール(前景)に、もう一人は全身を写すという構図を両者が切り替わるような構図が撮られています。これはまるで互いに前戯しているかのようでした。

さらにここでルプソワール(前景)として写っている手は、この後で二人が失う側の手なんですよね。こう言った細かい暗示が本当に素晴らしいです。

このようにデュエットのシーンからベッドシーンへとグラデーション的に変化して行くんですよね。このグラデーションが非常に華麗に思えました。

また二人の感情が一体になって行く様をクラシックの劇伴が助けているのですが、この劇伴を演奏しているのが当の本人たちというメタフィクション的な構造もまた秀逸ですよね。

蛇足が効果的に作用する巻き戻しショット

さて本作ではある意味で種明かし的に演出されるシーンに”巻き戻しシーン”がありますよね。

この”巻き戻し”という言葉。今となっては違和感の多い人も少なくはないのではないでしょうか。というのも巻き戻しというのはVHSに対する用語で、文字通りVHSのテープを巻いて戻す時に用いられた言葉です。VHSは物理テープなため、巻いて戻すことで映画の時間を遡ることができたんですね。

そのためBlu-rayやVODの時代となった今では”早戻し”なんていう言葉が使われるようになってきています。

しかし本作の場合は”早戻しショット”ではなく”巻き戻しショット”と呼んだほうが相応しいかと思います。というのはこのシーンに付け加えられている効果音にカラクリがあり、その効果音というのが”巻き戻し”の際に聞こえる独特の音なんです。

つまりあえて巻き戻し時の独特の効果音を演出することで、映画の外側から物語を操作しているという印象を与え【物語の種明かし】という演出を作り出しているんです。

同じような巻き戻しショットは『野蛮な奴ら』でも見ることができます。

このように、本来なら蛇足とも言える演出が効果的に映画へ作用している好例と言えるでしょう。

本来なら蛇足とも言える演出が効果的に映画へ作用している好例はSF映画でもよく見ることができます。

それが【未来ディスプレイの走査線】というもの。これはSF映画のタイポグラフィーを研究したデイヴ・アディが提唱したもので、デイヴ・アディ著『SF映画のタイポグラフィとデザイン』で語られています。

走査線とは電子ビームの走査によって発生するディスプレイに対して水平な線のことで、ブラウン管にのみ現れる現象です。液晶など未来のディスプレイには本来起こり得ない現象なのですが、SF映画ではディスプレイ感を出すため意図的に挿入されているんです。

この演出はほとんどのSF映画で観ることができるので、今後SF映画を観る際はぜひ注意深く鑑賞してみてください。

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