オレンチ
はじめまして!オレンチと申します!
今回は『シャン・チー/テン・リングスの伝説』について書いていこうと思います。
早速ですが、以下目次からどうぞ!
目次
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の基本情報
- 2021年/アメリカ
- 132分
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のスタッフ
- 監督:デスティン・ダニエル・クレットン
- 撮影:ウィリアム・ポープ
- 制作:ケヴィン・ファイギ
- 脚本:デイヴ・キャラハム、デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ランハム
- 美術:スー・チャン
- 衣装:キム・バレット
- 編集:ナット・サンダース
- 音楽:ジョエル・P・ウェスト
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のキャスト
- ショーン/シャン・チー:シム・リウ
- ケイティ:オークワフィナ
- シャーリン:メンガー・チャン
- イン・リー:ファラ・チャン
- レーザーフィスト:フロリアン・ムンテアヌ
- イン・ナン:ミシェル・ヨー
- ウェンウー:トニー・レオン
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のネタバレ感想・解説・考察
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(以下、『シャンチー』)は『ブラックパンサー』の成功によって生まれた。
『ブラックパンサー』は2018年に公開されたMCU(マーベル・シネマ・ティックユニバース)に属する作品で、アフリカの大地に隠されたハイテクノロジー国家ワカンダと、その若き王子ティ・チャラの物語でした。
そんな『ブラックパンサー』は興行的に多大な成功を収め、アメコミ映画として史上初のアカデミー作品賞へのノミネートを果たしました。
黒人キャストで固めたれたこの作品の成功は、世界中の黒人たちに大きな勇気を与えたのでした。
『ブラックパンサー』の成功を得てMCUプロデューサーのケヴィン・ファイギはこう語っています。
「どんな人種であろうと自分たちを代表するヒーローをを持つべきであり、我々はそれを提供すべき立場にいる。」
──ケヴィン・ファイギ
また黒人たちに勇気を与えたことを裏付けるために、セリーナ・ウィリアムズのエピソードを紹介しておこうと思います。
セレーナ・ウィリアムズは、極めて白人の影響力が強い、テニスというスポーツにおいて、黒人女性として多大な成功を収めてきた女性です。
そんな彼女が出産後、医学的にも意味のある(セリーナは出産後に血栓の問題を抱えていた)ピタッとしたキャットスーツを着てテニスの試合に挑んだ際のこと。フランスのテニス連盟会長であるベルナール・ジウディセリから「場所を弁えるべきだ」と非難を浴び、結局はキャットスーツの使用を禁止されてしまったのです。
このエピソードを聞いた時、全くもってテニス会の老害は『バトル・オブ・セクシーズ』の時と何にも変わってないなと思ってしまいました。
キャットスーツについて尋ねられたセリーナはこう語っています。
「あれを着ていると戦士のような気分になるの。もしかしたらワカンダの。私はいつだってスーパーヒーローになりたいと思っていたし、あれはスーパーヒーローでいるための私なりの手段のようなものなんです。」
──セリーナ・ウィリアムズ。
世界的なテニスプレーヤーが自分のアイデンティティについて、アメコミを。マーベルを。MCUを引用したのです。
これは凄いことです。
そう感じると同時に、『ブラックパンサー』がいかに多様性について影響を与えたのかよくわかるエピソードですよね。
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キャットスーツを着て試合に望むセリーナ・ウィリアムズ。どこに禁止される要素があるのか理解に苦しむ。
世界中の老若男女が鑑賞するようになったこのモンスターコンテンツ(MCU)は、『ブラックパンサー』『キャプテン・マーベル』辺りから確実に多様性を意識するようになっています。
とりわけフェーズ4に入ってからと言うものその動きは顕著で、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』ではブラック・ライヴス・マターを呼びかける内容に「MCUでここまで切り込むんだ。」と度肝を抜かれたことが記憶に新しいです。
そんな流れでの『シャン・チー』である。
見ればわかりますが主要な登場人物はほぼアジア人で構成されており、まさしく『ブラックパンサー』のアジア版といったキャスティングですよね。
この構成で夏の、しかもMCUのブロックバスター映画として公開されたのです。
一昔前では考えられなかったことですよ。
もちろんブロックバスター映画でありながら、様々な多様性に向けたメッセージが隠されているのですが、とりわけ「指パッチン後のあなたは孤独じゃない」というポスターが目を引きましたね。
これは様々なジェンダー・アイデンティティに悩む人々へ向けた「YOU ARE NOT ALONE(あなたはひとりぼっちじゃない)」をモチーフにしていると考えられます。
サノスのデシメーション(指パッチン)を多様性へのメッセージへつなげてくる辺り、非常に洒落が効いていましたね。
さすがMCU。
多様性やジェンダーについては以下の本から多く引用させていただいています。気になる人は是非!
さて話をそろそろ本編に移して、、、
『シャンチー』は前半はカンフーアクション映画、後半はファンタジー──、というより中国神話のようなスタイルで展開される。
前半と後半に大きなギャップがあり、一見アンマッチな構成なようにも見えるでしょう。
が、『ブラックパンサー』にしたって前半はスパイ映画だったのに対し、後半は歴史モノの大合戦と大きくスタイルを変化させているのですよ。
そもそもMCUというシリーズは様々なジャンルを超越した上で形をなしている集合体なわけで、もっと俯瞰的に見ればなんら違和感はないと思います。
ただカンフーと中国神話のコントラストが強すぎただけなんじゃないでしょうか。
冒頭では『ハムナプトラ』シリーズのような、物語の各となるような伝記ではじまりますが、トニー・レオンが単身で敵陣に切り込むシーンは彼も出演しているチャン・イーモウ監督作『HERO』のワンシーンを彷彿させますね。
またファラ・チャンとのカンフーや一連のミシェル・ヨーの体術には『グリーン・デスティニー』っぽさを感じます。この【っぽさ】の源泉にはワイヤーアクションという文化がありますね。(ミシェル・ヨーは『ガーディアンズ』とも掛け持ちしてしまったことになるけどどうなるんだろう。)
いずれにしても中国系の映画から多くのインスピレーションを受けていることは間違いないでしょう。
子供の頃に授けられたペンダントが橋渡しとなり、現代へスキップ。いよいよ本格的にシャン・チーの物語がスタートしていきます。
劇中の登場人物の部屋は、暗喩や今後の展開を示唆する温床となっており、とりわけ壁に貼られたポスターには毎回要注意するようにして観ています。
本作では予想通りというべきか、カンフー映画のポスターがポツポツと貼られていましたね。
中でも注目したいのは『カンフー・ハッスル』のポスター。
『カンフー・ハッスル』は『少林サッカー』で世界にバズったチャウ・シンチー主演作で、2005年度にアメリカで公開された外国映画として最大のヒットを飾った作品です。
そんな『カンフー・ハッスル』に出演するユン・ワーが、本作のター・ローの村民として登場しているんです。
ユン・ワーは知る人ぞ知るカンフー会のレジェンド。あのサモ・ハン・キンポーやジャッキー・チェンと肩を並べる存在なのです。
それにしてもオークワフィナは相変わらずオークワフィナを演じていましたね。今彼女に求められているキャラなのだろうし、個人的には超絶好みなので問題ないのだけれど。
さてスーパーヒーロー映画──、とりわけそのオリジンには必ず描いておかなければならないセオリーというものがある。人命救助だ。
ヒーロー映画における人命救助というのは、彼ら彼女らをヒーローたらしめるイベントであると同時に力を証明する場所でもあります。
本作におけるシャン・チーの人命救助はというと<バスのシーン>が当てはまるのだけれど、ヒーローの人命救助と言うにはかなり弱いです。
テンリングスを用いた人命救助を見れたら最高だったのだけれど、そもそも本作のテーマとなっている継承のアイテムとしてテンリングスが重要な役を担うので、今回は<バスのシーン>くらいが限界といったところでしょう。
次回作でテンリングスを使ったヒロイックな人命救助に期待したいですね。
ただ<バスのシーン>がダメだったのかといえば、そういうわけではなく、シャン・チーのファーストインプレッションとして、脚本術で言うところのインサイト・インシデント(物語のきっかけ)としては申し分ないと思います。
とりわけカンフーアクションを継承したシンメトリーな構図が観ていて気持ちが良いですよね。
アクションにおけるシンメトリーは力の拮抗を示します。綱引きのように画面上を右へ左へ二人の立ち位置が変化していくのが特徴的。
この構図は『マトリックス:リローデッド』や『キル・ビル Vol.2』などでも観ることができます。
割と展開は早く、舞台はマカオへ。
ここではMCUファンに向けたアイキャンディ(ウォンvsアボミネーション)がありました。ウォンは小遣い稼ぎでもしているのだろうか。。笑
この地下闘技場を作った張本人はシャン・チーの実妹シャーリンなわけなのだけれど、彼女が言った「男の帝国に入れないのなら自分で帝国を築く」というセリフには”家父長制”に対するメタファーが隠されているのかもしれないですね。
さてここでのシーンで印象的だったのは、竹で組まれた足場で行われるスラップスティック味のあるカンフーシーン。
ジャッキー映画などでよく観ることのできるシーンですが、ここでは女性ファイターの傑作『チョコレート・ファイター』をオススメしておきます。
『チョコレート・ファイター』は簡単にいうと、体の柔らかさを活かした格闘アクションが新鮮すぎて初体験に近いです。
『アトミック・ブロンド』はガチで女性が男性をぶち殺すことを考え抜いたアクションでしたが、コチラは女性の華奢な体や柔らかさを最大限に活かしたカンフーアクションなのです。
カンフーアクションに慣れた人でも予想の斜め上をいく戦い方を見ることができるはず。
「え、ムチですか?」というくらい、柔軟な攻撃は必見!
そんな『チョコレート・ファイター』の見せ場の一つとして、『シャンチー』のマカオシーンとよく似たシーンがあります。
テン・リングスの隠れ家へと舞台が移ると此処でもちょっとしたサプライズが。”マンダリン”ことトレヴァー・スラッタリーだ。
ベン・キングスレーの無駄使いと言おうか、贅沢使いのこのキャラクターは、処刑されるためにこの施設に拉致されたのだがシェイクスピアの代表作『マクベス』を演じることで一名を取り留めていました。
実はこの『マクベス』が物語のいく末を示唆していのです。『マクベス』というのは、主人公が魔物(魔女)に唆されることでその身を滅ぼす悲劇。
ウェンウーは、魔物に唆されて身を滅ぼす物語を気に入ったのです。本作を鑑賞済みの皆様ならその繋がりがよくわかるでしょう。
ちなみに『マクベス』は黒澤明監督作品『蜘蛛の巣城』としても観ることができますよ。
物語は第三幕に進み、ター・ロー村へ。
ここから一気にテイストは変わり中国神話に登場するような魔物が多く登場します。
どの魔物もこれまでアメリカ映画では描かれてこなかった造形で真新しく新鮮。かつアジア人としては何処か懐かしさのようなものも感じますね。
特筆したいのは龍の存在です。これまでアメリカ映画で描かれてきたのは竜であり、人間と同じ次元に存在する生物であることがほとんどでした。
本作に登場するのは龍であり、おそらく人間とは違う次元に存在する魔物。彼なのか彼女なのかは定かではないですが、奴が飛ぶ原理は人智の外なのです。およそ神に近いニュアンスでしょう。(『ドラゴンボール』におけるシェンロンのような。)
この龍の飛ぶ姿に感動を覚えたのは僕だけではないはず。
ここでは龍のカラリングにも注目してください。
龍のカラーは赤と白となっており、シャン・チーとシャーリンそれぞれの正装と同じ色をしているのです。つまり龍はシャン・チーとシャーリンを司っていたと言えるでしょう。
無事テンリングスを受け継ぎ、”サーカス”の一団となったシャン・チーとケイティ。
さらなるMCUの広がりに、今後の展開が楽しみで仕方がないですね。