オレンチ
はじめまして。オレンチと申します。
今回はお話しする映画は、NETFLIXで配信されているオリジナル映画『ビート -心を解き放て-』です。
メガホンを取るのは個人的に初見なクリス・ロビンソン。元々はミュージックビデオ界で活躍していた人物のようで、『(500)日のサマー』のマーク・ウェブと同じようなキャリアですね。出演は『最終瀬絶叫計画3』や
『トランスフォーマー』などで繰り返しコメディリリーフを担当したのアンソニー・アンダーソンです。
というわけで以下目次より早速行ってみよう!
この記事はネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
『ビート -心を解き放て-』のネタバレ感想・解説・考察
黄金型の物語の類型
本作の物語を要約すると、「隠された才能を持った人物が、その才能を徐々に開花させ成功へと歩む物語」と言えるかと思います。
ようするにサクセスストーリー(成功譚)ですね。
このような類型のサクセスストーリーは繰り返し描かれており、最もポピュラーな物語の一つであると言えるでしょう。テーマとなる才能はさまざまで、本作と同じように音楽でもいいし、スポーツや何かの学問でも成立します。
例えば歌と踊りで成功へと歩む『バーレスク』は同じ類型のサクセスストーリーだと言えます。
本作『ビート -心を解き放て-』は、そんなサクセスストーリーという堅牢な物語の類型に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と、少なからずアフリカ系アメリカ人におけるの貧困層の問題提起が肉付けされていました。
ネットフリックスではこのようなアフリカ系アメリカ人の問題を描いた作品を多く観ることができます。
アメリカ合衆国の社会システムの欠陥を描いた作品に、本作と同じくNETFLIXオリジナル映画の『インペリアル・ドリーム』があるのでこちらも是非ご鑑賞ください。
とはいえ本作の場合、問題提起はかなり軽め。エンターテイメントに大きくパラメータを振ったと言えるでしょう。
本作ではPTSDになってしまう原因を赤裸々に描写しているのですが、ここがNETFLIXならではともいうべきで、かなり衝撃的に描いてます。
というのも本作の主人公オーガストは、姉が頭を打たれて死ぬ様を目の前でみてしまったことでPTSDになるのですが、この姉が頭を撃ち抜かれたショットと、地面に横たわって頭から血がどくどくと流れるショットが隠すことなく写されるのです。
人によってはそれこそPTSDと近い経験となり得るような描写ですよね。普通の劇場公開作品の場合はPGやR指定の関係上、そのような描写を隠すことがほとんどですが、NETFLIXでは隠すようなことをしません。
これはほかのNETFLIXオリジナル映画にも言えることで、NETFLIXらしさとも言えると思います。
さて本作を三幕構成と呼ばれる脚本術で抽出してみても、セオリー通りによくできた作品と分析することができます。
三幕構成についての詳しい内容は当ブログで解説している「三幕構成とは」を参照してください。
本作を三幕構成で分解すると、それぞれ以下のようになります。
第一幕ではPTSDを患ってしまったオーガストと、警備員として燻っているロメロの紹介(設定)をします。
第二幕では二人が出会い、徐々に才能を開花させ一歩ずつ成功への道を歩んでいき、全てが順調に見せます。
第三幕では、二幕と三幕が切り替わるタイミングで一度どん底に落とし、二幕でおざなりとなっていた本質を見つめながら再起を図ります。
この流れがちょうど1:2:1の割合で変化していき、三幕構成において最も綺麗な変化率となります。
そのため非常にハリウッド的で見やすい作品と言えるでしょう。
クソ野郎に粛清を
さて王道的な物語の類型かつ、綺麗な三幕構成によって、万人に受け入れられやすい物語になっていると言えるでしょう。
ただ個人的に僕の性格の問題でもあるんですが、本作に登場するクソ野郎への粛清がちょっと足りないように思えるんです。
本作には様々なクソ野郎が登場します。
本作のクソ野郎代表とも言えるテレンス(ポール・ウォルター・ハウザー)や、MCの元締めの人、ロメロに見出されたクイーン・カブリニもロメロ側からみたら、裏切り者のクソ野郎ですよね。
彼らは全員、目の前の金に目が眩み、ロメロやオーガストにかなりひどいことをしているんですよ。それなのに粛清と言えるような描写はテレンスにのみに、オーガストの契約抹消という形でなされますし、そもそもオーガストの契約抹消だけだと粛清としてはかなり弱いですよね。
クイーン・カブリニの契約を独占したテレンスにとっては、特に何かを損失したわけではないように思えます。
というわけで、個人的にはもっと「ざまぁ!!!」と思えるような粛清が欲しかったなと思うところでした。