オレンチ
はじめまして!オレンチと申します!
今回は日本が世界に誇る巨匠、黒澤明監督作品から『赤ひげ』について書いていこうと思います。
早速ですが、以下目次からどうぞ!
『赤ひげ』の基本情報
- 1965年/日本
- 黒澤明監督
- 三船敏郎
あらすじ
江戸時代、長崎で医学を学んだ青年・保本は、医師見習いとして小石川養生所に住み込む。しかし、無骨な所長・赤ひげに反発する保本は、養生所の禁を犯して破門されることすら望むようになる。そんな折、保本は赤ひげの診断を誤りだと指摘する。
(U-NEXTより)
ネタバレ感想・解説・考察
三船敏郎、最後の黒澤映画
タイトルにもなっている「赤ひげ」とは、三船敏郎が演じる養生所の頑固ジジイ(所長)のヒゲが赤らんでいることからつけられたあだ名。ちなみに三船敏郎は実際に赤らんだヒゲをつけて撮影に挑んだらしい。白黒なのにね。
ただし、そういった徹底的な細部へのこだわりがあってこそ、黒澤映画が黒澤映画たらしめていることは間違いない。
江戸時代に幕府が設置した無料の医療施設のこと。
黒澤明監督作としては23作品目の作品であり、黒澤明最後のモノクロ映画。さらには三船敏郎が黒澤映画に出演した最後の作品でもあるのだ。
三船敏郎最後の黒澤映画というのはなんとも感慨深く、三船は黒澤によって俳優の道を切り開かれたとっても過言ではない。
本作における”赤ひげ”の立ち位置を改めて考えると、かつての志村喬を連想してしまう。
タイトルこそ『赤ひげ』だが、本作の主人公を1人上げるのなら加山雄三が演じる保本登だろう。
赤ひげの出演シーンは多くなく、保本の目線でストーリーは進行する。
保本は幕府の御番医師になることを夢見ていたが、医療費が支払えないようなどん底の患者を受け入れている養生所に配属されてしまう。
初めは何としてでも養生所から出ることを画策するが、赤ひげの人間性に触れるうちに養生所での自分の居場所を見出していくといった物語だ。
「赤ひげと保本」つまり「三船と加山」の構図は、初期の黒澤映画では「志村と三船」として繰り返し描かれてきた。
『酔いどれ天使』では破滅的なヤクザを三船が演じ、彼を救おうとする医師を志村が演じた。
『野良犬』では銃を盗まれた新米刑事を志村喬がベテラン刑事として手助けした。
『七人の侍』では志村喬が三船演じる侍たちを引き連れて村人たちを救った。
それから『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』までくると、三船敏郎が作品の看板を背負い、志村喬は脇役へと身を引いたのだ。
これらの流れを鑑みると、本作『赤ひげ』は三船敏郎から次の世代へバトンを渡す、《世代交代》の作品だと思える。
ちなみに本作から遡ること2作、『天国と地獄』『椿三十郎』も「三船と加山」「三船と仲代」という構図を見ることができる。

『野良犬』(49)における三船敏郎(左)と志村喬(右)
病人たちの群像劇
さてさて前述した通り、加山雄三が演じる保本登が養生所の門を潜るところから始まる本作は、言うなれば病院を舞台にした群像劇である。
群像劇とは、複数の登場人物がもつ短編的なエピソードが織りなすストーリー手法で、『グランド・ホテル』(33)が初めて試みたことから「グランドホテル形式」とも呼ばれる。
一昔前の日本映画で有名どころを挙げると三谷幸喜の『THE 有頂天ホテル』(06)がそれで、『THE 有頂天ホテル』(06)の中で、敬意を表するかのように『グランドホテル』(33)のポスターが飾られている。
黒澤明も群像劇を得意とするところで、遡れば第二次世界大戦中の軍需工場で働く女性たちをドキュメンタリーテイストに描き出した『一番美しく』(44)からはじまり、『どん底』(57)、『どですかでん』(70)などがある。
保本は養生所で、命の幕を閉じる人々のエピソードを目の当たりにし成長していくわけだが、ガンを患ったジジイの最後を「荘厳」と語った赤ひげのセリフは深い。
妻に浮気され、さらには浮気相手に娘さえも奪われ(妻の浮気相手と娘が再婚した)、最期の時まで娘と会うことが叶わなかった悲しい男の最後を、立派だったと言い放ったのだ。
死ぬ直前、彼の命を照らす灯火が消える瞬間は、本作屈しの名シーンと言えるだろう。
とまぁこのように養生所に身を寄せる人々のエピソードを180分のもの長尺で少しづつ展開していくわけだが、その中でも重厚なエピソードの一つとして、今すぐにでも死にそうな顔をしながら「大丈夫。大丈夫。」と他人のために無茶をする謎に包まれた男、佐八の過去話がある。
詰まるところ佐八は、許嫁がいた女性と両想いになり、結婚して幸せの絶頂を迎える。しかし佐八は妻に許嫁がいたことを知らずにいた。
結局妻は、許嫁を裏切ったことに対して罪悪感を感じており、大地震によって家が崩壊した隙を見て佐八の元を去ってしまう。
何も知らずにただ妻が消えてしまった佐八は、生きているのか死んでいるのかもわからないまま、絶望の淵に立たされてしまうのだ。
そして数年後、子供をおぶった元妻の姿を目撃してしまうのだ。元妻は許嫁の元に戻っており、彼の子供を授かっていた。
そして佐八の元に現れ、今度は佐八に罪悪感を抱いたまま自殺する。佐八は妻の供養のため、無性で人々のために善行を尽くしていたのだ。
なんて勝手な女なんだろう。
この元妻は勝手に駆け落ちしたかと思えば、罪悪感に負けて佐八の元から逃げ、子供がいるのにもかかわらず、佐八の手によって自殺するのだ。
なんなら屈指の美談のように語られているが、元妻の悪行には本当に腹が立つ。
しかし佐八の美談()に境に保本は心を入れ替え養生所で働くことを決意するのだ。
佐八のエピソードに幕を下ろし、赤ひげと心を入れ替えた保本は今で言うところの風俗的な大人の遊び場に出向く
そこで虐待されている「おとよ」という娘を発見。おとよは病気を患っていたため養生所で引き取ろうとしたところ、育ての親が激怒しチンピラたちを赤ひげに差し向けるのだが・・・、
赤ひげがチンピラ全員の骨を折って撃退してしまうのだ。
刀が拳に変わっただけじゃないか・・・。
まるで『用心棒』(61)の、もしくは『椿三十郎』(62)のワンシーンであるかのようだった。
しかも、おとよを虐待していた育ての親の腕を掴んだ保本に対して赤ひげは、「そんなやつを触るな!腕が腐る!」と暴言を吐く。
さらに「自分の臓物の匂いを嗅いでみろ!臭くて叶わん」「匂いがわからぬなら、鼻まで腐っておる」と立て続けに暴言を浴びせ続ける。
このシーンは、本作屈指の爆笑ポイントでございます。
余談だが『用心棒』(61)と『椿三十郎』(62)で三船敏郎は超高速の殺陣を魅せ、当時の人々の度肝を抜かした。以前までの時代劇は見せ場である殺陣シーンを永遠と続けたが、同2作で三十郎が刀を抜くシーンは少なく、いずれも瞬殺している。
この演出が圧倒的で、以来時代劇の描き方を変えてしまったほどだった。
三船敏郎は時代劇そのものをぶった斬ってしまったのだ。
心を揺さぶる光る目の演出
最後は話を『赤ひげ』に戻して、黒澤明の映画テクニック的な部分に触れてみようと思う。
黒澤映画の全体に言えることとして、「大胆な絵作りと明快な物語」ということが言えると思う。
とにかく豪快な絵作りが目につき、雨を降らせば必ず豪雨。風が吹けば砂嵐になり、太陽が出ればギラギラと白黒でも灼熱であることが伝わってくる。(特に『野良犬』(49)の灼熱感は凄い。)
『赤ひげ』でも例外なく豪雨が降り、砂嵐が吹き荒れるのだ。
とりわけ『赤ひげ』の豪雨シーンは、より激しい雨に見せるため、地面からも水が出る仕掛けになっていたらしい。
『用心棒』(61)で突風を吹かせるため、飛行機のプロペラを使ったという逸話はあまりにも有名だ。
そんな豪快な演出が目立つ黒澤明だが、非常に繊細な演出こそ真骨頂と言えるのかもしれない。
とくに本作では、おとよを演じた女性の目に照明を当てることによって反射させ、まるで目が光っているかのようにみせることで、おとよの心が救われた様を演出した手腕は天才と言わざるを得ない。
巨匠・名匠と呼ばれるような監督は、独自の撮影法を編み出し、それが作品のグンと上げる。
たとえ演出に使う道具が正攻法でなくても効果的に見せたいシーンを演出するのだ。
かつてヒッチコックが『断崖』(41)でミルクの中に照明を入れて光らせたように。