はじめまして!オレンチと申します。
今回は1990年公開、マーティン・スコセッシ監督がギャングのノンフィクション小説を映画化した作品『グッドフェローズ』について考察し、僕なりに解説していければと思います。
先日早すぎる訃報が大変ショッキングだったレイ・リオッタの出世作だった本作。脇を固めたジョー・ペシやロバート・デ・ニーロも素晴らしい傑作ですね。
というわけで早速、本題へと進んで行きましょう!
『グッドフェローズ』のネタバレ感想・解説・考察
ギャングにおける繁栄
映画『グッドフェローズ』はニコラス・ピレッジが執筆したギャングのノンフィクション小説『ワイズガイ』(映画公開に合わせ小説も『グッドフェローズ』と改名)を映画化した作品。
『ワイズガイ』はヘンリー・ヒルという実在したギャングの生涯を赤裸々に語ったドキュメンタリー的な小説で、映画版もほとんど脚色されることなく描かれています。
そんな映画『グッドフェローズ』で語られる物語は【ギャングにおける繁栄と衰退】といったところ。
物語はヘンリー・ヒルと一部、彼の妻であるカレン・ヒルの独白によって進行され、ヘンリー・ヒルの心境が手にとるようにわかるような流れになっています。
少年時代のヘンリーが「大統領よりもギャングに憧れていた」と語っていることからもわかるように前半部分ではギャングの繁栄を描いています。
『グッドフェローズ』が面白いのは、2〜30年くらいの長い時間を描いているのにも関わらず、とんでもない疾走感で物語が進行する点かなと思います。
この疾走感は明らかに意識された作りになっています。例えばタイトルコールの演出はレースカーが横切るようなエフェクトで表示されるし、バッツを殺害したあとテーブルクロスを引き剥がす動作に疾走感が感じられる効果音が添えられています。
このように全編通して随所に疾走感を感じられる演出が加えられているんです。
そんな疾走感で語られるギャングの繁栄は爽快そのもので、まるでアメリカンドリームを掴んだかのような幸福感さえ感じることができます。
しかしあくまでも語りたいのは裏社会に手を染めた男たちの成れの果てなので、前半の繁栄部分にも「やはり恐ろしい世界」の片鱗を覗かせています。
「恐ろしい世界」の片鱗を覗かせるキーパーソンは、ジョー・ペシ演じるトミーですね。
ギャングの仲間達を紹介する酒場での素晴らしいワンカットが挿入されているシーンがありますが、このシーンでトミーが親しげに話していた矢先、急に重々しい空気になる瞬間がありましたよね。
あの瞬間は本作の縮図と言っても過言ではなく、少しでも選択を間違えれば即、死が待っているということを暗示しているんだと思います。
縮図だと言う証拠に重々しい空気を作り出す凄みを見せたい場合、俳優の顔のアップショットになることがほとんどなのですが、本作の場合は被写体の腰付近まで画面内に収まるミディアムショットが選択されています。
なぜミディアムショットなのかというと、周りにトミーとヘンリーを囲っている人物も同じ画面内に収めたいからです。そうすることでトミーがキレた後で恐怖を感じている周りの人物の反応まで見せることができるからですね。
故に当該のシーンは本作の縮図というわけです。
それにしても同シーンのジョー・ペシの凄みは本当に怖いですよね。
そんな恐ろしい世界の片鱗を見せながらも、やはり前半は華々しい展開が続きます。ヘンリーは13歳そこらで周りの大人よりも稼ぐようになり、美しい妻と結婚し、豪華な家も手に入れます。
盗むことは当然のことで、彼らにとっての仕事だったわけですね。
ただそんな繁栄はいつまでも続くわけはなく、徐々に──しかし確実に衰退への道を辿っていきます。
ギャングにおける衰退
繁栄と衰退の分岐点となるのがバッツ殺害一件からですね。
本作においてはとても重要なシーンなので、ヘンリーの少年期よりも先にバッツを埋めに行くシーンから本作は始まっているのだと思います。
冒頭でかなりショッキングでインパクトのあるシーンを挿入し、物語を追っていくとそのシーンが分岐点となる構成が本当に巧みです!
この分岐点で注目したいのがバッツを殺害した(したと思っていた)後でトミーの家で食事をするシーンです。
このシーンでよく目を凝らすと、トミーの背後にはレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が飾られているんです。
映画で背景に飾られている絵などは物語を暗喩していることが多く、例えば『ジョン・ウィック:チャプター2』では背景に内戦の絵画を大きく飾り、これから起こることを予見しています。
スコセッシは敬虔なキリスト教徒としても有名なので、このシーンでの『最後の晩餐』は明らかに意識しての配置でしょう。
ある意味でこの時の食事はヘンリー、ジミー、トミーにとって最後の晩餐であり、ここから徐々に衰退への一途を辿ることを暗示しているのかもしれません。
またなぜ『最後の晩餐』と言うタイトルなのかというと、ナザレのイエスにとっての最後の晩餐だからであり、なぜ最後の晩餐になってしまうのかと言えば、弟子に裏切られてしまうからなんです。
イエスの弟子の一人、ユダがイエスを敵視していた人々に密告してしまったことで、どの人物がイエスなのかバレてしまいイエスは逮捕されてしまうんですね。
この『最後の晩餐』に秘められたエピソード、『グッドフェローズ』の結末にとてもよく似ていますよね。
『グッドフェローズ』もヘンリーが裏切ることによってポーリーやジミーは逮捕され、2度と刑務所からでることができなくなってしまいます。
そう考えると食事が喉を通らないヘンリーの仕草から『最後の晩餐』におけるユダのように見えてきますね。
とまぁ『最後の晩餐』に絡めて本作の分岐点について語ってきましたが、ここ以降はギャングの恐ろしい世界が徐々に頭角を表してきます。
中でもインパクトが強いシーンは、トミーがスパイダーを殺害するシーンでしょう。おそらくトラウマを植え付けるレベルで唐突で恐ろしいシーンでしたね。
もう一つはルフトハンザ強奪事件の一連の流れでしょう。いとも簡単に仲間を殺していく流れには戦慄を覚えますよね。
このように分岐点から衰退を辿る『グッドフェローズ』ですが、テンションだけはずっと保ち続けているところが本当にすごいし面白いですよね。
ルフトハンザ強奪事件によって消されてしまったギャングたちのシーンでも、とてつもなく恐ろしいシーンであるにも関わらず、まるで「これがワイズガイの美学」とでも言うかのように軽快なBGMによって切り刻まれていきますよね。
音楽の軽快さと暴力に過激さに大きなコントラストが生まれ、よりいっそう暴力描写がくっきりと見えるようになっていました。
クライマックスのヘンリーが麻薬捜査官に逮捕されるまでの1日を追ったシークエンスでも、ジャンプカットなどを多用し、驚くほど爽快なスピード感を演出していましたね。
99%事実
ギャング(マフィア)映画の金字塔と言えばフランシス・フォード・コッポラによる『ゴッドファーザー』ですが、ある意味で『ゴッドファーザー』はマフィアを神格化し、ともすると英雄譚としても呼べるかのような作劇になっていました。
そんな『ゴッドファーザー』の美化されたマフィア(ギャング)の世界を解体し、ギャングの世界を赤裸々に語ったのが『グッドフェローズ』です。
実際ヘンリー・ヒルは「『グッドフェローズ』で描かれていることは99%事実だ。」と語っています。
『グッドフェローズ』のBlu-rayには「『警官』と『悪党』による音声解説」という特典があります。
この特典、どう言う意味かと言いますと、ヘンリー・ヒル(悪党)とヘンリー・ヒルに司法取引を持ちかけた警官(警官)が本編の映像に沿って『グッドフェローズ』を解説するというもの。
つまり当事者による『グッドフェローズ』の解説なんです。
冒頭のシーンでヘンリー・ヒルは「車のトランクを叩く音は今でも夢に見る」と語っていました。
上記のような驚くべき会話が音声解説には大量に収録されておりますので、ぜひ機会がありましたらご鑑賞ください。