はじめまして!オレンチと申します!
今回は、惜しくも・・・っ!惜しくも劇場公開を中止し、動画配信サービスDisney+によって配信公開されたピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』について書いていきたいと思います!
監督は『モンスターズ・インク』『インサイド・ヘッド』などを手掛けたピート・ドクター。
主演は『Ray/レイ』『ベイビー・ドライバー』などのジェイミー・フォックスが担当しています。
ネタバレあり感想・解説・考察
まず一言で言うなら大大大傑作でした。
ここに来て、最後の最後で今年ベスト級がやってきてしまったーーー!と言う思いでいっぱいです。(今年公開の映画はほとんど見れてないデスケド・・・)
ピクサーのツアー感
ピート・ドクターがまたやった!と言う感じでした。
と言うのはピクサーが作り出す独特の世界観が僕は大好きなんですけれども、本作は”魂”の世界やルールについて、まるでツアーでも行っているかのように解説されながら旅をしましたよね。
主人公のジョー・ガードナーは初めてソウルの世界にやっていたので、当然ながらソウルの世界については何も知りません。言わば視聴者のアバター、代弁者、物語の案内役としても機能しているんですよ。
故に嫌な説明セリフ感が薄まるんですよ。
僕が『2分の1の魔法』に”物足りなさ”を感じてしまったのですが、まさに僕が『2分の1の魔法』に「足りない」と感じてしまったモノが『ソウルフル・ワールド』にはありました。
『2分の1の魔法』も、もちろん傑作ではありますが、個人的には「もっとピクサーが作った世界のディティールを覗きたかったな」と思ったのです。
これはピート・ドクターの作家性なのかもしれませんが、『モンスターズ・インク』も『インサイド・ヘッド』にもツアー感を感じています。ピート・ドクターは自分が創造した世界をじっくりと視聴者に見せたいのかな?
特に本作は『インサイド・ヘッド』味が強いですね。
とにかく最初から最後まで面白かった!
冒頭からずっとジョー・ガードナーに死の香り漂っていたり、22番が初めてこの世に来て戸惑ってる感じとか。
あと猫ね。
「ね、猫死んじゃうん・・・?」
勝手に体に入り込まれて、あの世に送られかけているミスターミトンズが1番の被害者なんじゃないかなと(笑)
潜在意識を刺激する物語
僕は『インサイド・ヘッド』超肯定派なんですが、それは動物的直感───、本能に近い部分に語りかける物語だからです。
『インサイド・ヘッド』は言わずもがな頭の中に芽生える感情の物語で、感情を具現化し世界を創造した作品ですね。
『インサイド・ヘッド』をみていて、「あー!わかる!」「なんか懐かしいな」的な経験をした人が多いのではないかと思いますが、そう感じる瞬間というのは《理性的な感情》ではなく《直感的な感情》を刺激されているからなんです。
人は《直感的な感情》を刺激された時こそ突き動かされ、より深く記憶に刻まれます。
人の心を動かすプレゼンの方法に、【ゴールデンサークル理論】というものがあります。
【ゴールデンサークル理論】とは、マーケティング・コンサルタントのサイモン・シネック氏が『TED Talks』で『優れたリーダーはどのようにして行動を促すのか』というプレゼンのなかで提唱した理論です。
サイモン・シネック氏はこの『TED Talks』の中で、どんな商品なのか説明するよりも前に、なぜ商品を作ろうと思ったのかを先に伝えることで、人は突き動かされると解説しています。
「なぜ商品を作ろうと思ったのか」という感情は、より直感的な感情に近く、動機の部分ですよね。
奇しくもピクサーの黎明期を支えたAppleのスティーブ・ジョブズもゴールデンサークル理論に基づいて、iPodを大成功に導きました。
本作『ソウルフル・ワールド』は感情よりも、さらに潜在意識へ深く潜った魂の物語ですよね。故により深く心に刺さる物語なのです。
例えば《ユーセミナーでの性格の形成》だったり《万物の殿堂》《自分の殿堂》や「ゾーンと呼ばれる肉体と精神の間」などすべて潜在意識の領域です。
フロイトやユングの本を読めば、もっと本作への理解が深まりそうなきがします。(ユングは22番に困らされる役で本編に登場していましたね。)
そしてなによりも本作が語りかける《生きる意味》については、最も潜在意識をえぐられました。
劇中で語られた「魚の話」や「理容士の話」が印象的でしたが、「そもそも生きるために意味や目的など必要ない」と言うことを語っているのだと思います。
主人公のジョー・ガードナーは生きる意味や目的に囚われすぎて、目的を達成すると燃え尽き症候群になっていましたよね。
“きらめき”は生きる目的ではなく、生きていくことそのモノなんですね。
些細なことに”きらめき”を見いだし、日々を生きていくことこそ大切なことで、22番はジョー・ガードナーの体を通して「些細な”きらめき”」を見つけました。
そうしてポケットに詰め込まれた「些細な”きらめき”」によって《生きる準備》ができたのです。
劇場で観たかった感はどうしても否めないですが、追加料金無しで独占配信に踏み切った意味がわかるような気がします。
もちろん興行的な意味は大きく、もしかしたら興行的な意味だけなのかもしれませんが、こんな時代だからこそ必要な物語だなと強く感じます。
言わずもがな2020年は新型コロナウイルスの影響によって、誰も予想できなかった危機に世界中が直面し、まだまだ試練が続いています。
不安や強迫観念に取り憑かれてしまえば人生を見失い、魂は彷徨ってしまうし、海を見つけたい魚やジョー・ガードナーのように目的に囚われすぎれば、燃え尽きてしまうかもしれません。
こんな時代だからこそ、日々の”きらめき”を見つけて一瞬一瞬を大切に生きることが大切なのではないでしょうか。
絶対的劇場案件だった。
と・わ・い・え!劇場で観たかった感はどうしても否めない!悔やまれる!
広大に広がるあの世への道や、ジョーがユーセミナーまで落ちていく過程だったり、ニューヨークのロングショット、地球のロングショット、ひいては銀河のロングショットなど、『ソウルフル・ワールド』は息を飲むロングショットで溢れています。
4K映像を見ていると思うことがあるのですが、4K映像の真価を問われるのはどんな映画であってもロングショットなのです。
ロングショットとは、都市を映した空撮やクレーンショットなどがほとんどで単純に情報量が多いんですよね。
情報量が多いと言うことは、それだけ映像が細かいということなので、より細かく映像を見せる4Kの真価が発揮されるというわけです。
4Kじゃなかったとしても、IMAXのような大きなスクリーンで見ない限り、気付けないような細部まで作り込まれているいると思います。
ロングショットだけでなく、色彩も見事で、とりわけゾーンのシーンは圧巻でした。
ゾーンはほぼネイビー1色で構成されていますが、空や地面、壁やその奥行き、彷徨う魂まで人目でわかるようにできているんですよ。
この表現力はすごいですよね。
よく見ると地面は砂でできているので、細かい粒子まで注目して見て欲しいと思います。
このシーンを見た瞬間、4KUHD案件だなーと思いました。当然発売とともに買いますね(笑)
ちなみにピクサーの色使いについてもっと深掘りしたい人は、以下の本がおすすめ。
ほぼテキストはなく、絵のみの本ですが、352ページもあるのでピクサーの色へのこだわりがよくわかると思います。
キモいところまでやってきたピクサーの技術力
それにしてもピクサーの技術力はどこまで行くのかとつくづく思います。
今回で言えば服の質感に是非とも注目してもう一度見ていただきたいです。
帽子、セーター、スラックス、破れるスーツと父親のスーツ。
いずれも”質感が違うこと”に気づくと思います。もっと言えば、学校の傷んだピアノや机に積もったホコリなど細部の作り込みが本当に凄い。
さらに注目したいのは、カメラの使い方です。
現実の世界では、よりリアル感を演出するため、手取り風で作られています。よく見ると映像は定点ではなく小さく小刻みに揺れていることに気付けるでしょう。
また光と影の使い方が大きく飛躍したように感じます。
人間がよりリアルに見えるのは、おそらくですが光と影の技術力が高くなったためで、ちょっとキモいレベルでリアルになってきていますよね。
デフォルメされたアニメ的な姿形ではあるものの、そのまま実写に存在しているのでは?と錯覚するほどリアルです。
もはやこのリアル感は新感覚と呼べるほどじゃないかなと。
スペースオペラに登場するヒューマノイド型エイリアンがキモい感覚と似ていますね。
ソウルは三原色でできている
ソウルたちは基本的に全身が水色でできていますが、よくみると黄色と赤も混ざっているんです。
この三色は色材の三原色と呼ばれ、混ぜ方次第でどんな色にも変わることができます。(厳密にはC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)。)
つまり、ソウルはどんなカラー(性格)にも成れるという可能性が秘められているんですね。
その証拠に、あの世へと向かう道での最期にソウルは3つの色に分解され「色材の三原色」の外側である大きな白の塊となって浄化されています。
よーく目を凝らして見ていただきたいのですが、小さくパッっと3つの色に分解されていくのが見えますよ。