お疲れ様です!オレンチです!
「”わたしたち”がやってくる」
何とも作品の雰囲気を捉えたキャッチコピーですこと。
“わたしたち”とは一体なんなんでしょうか?
ちなみに私ごとですが先日。夜中に目を覚ますと息子が”わたしたち”さながら無表情で立っておりました。
わが子だろうとクッソ怖いね。あのビジュアル。おもわず低い声で「ヒィ」と漏れてしまいました。
オレンチ
結局、息子はのどが渇いて目が覚めた挙句、寝ぼけて棒立ちしていただけでしたw
というわけで今回は『アス』の映画レビューです。
今回は予告編を数回見ただけのほぼ前情報無しで今回の鑑賞に挑みます!
ではでは感想・解説いってみましょ。
この記事はネタバレを含んだ上で作品を評価しています。
予めご了承ください。
作品情報
- 原題:Us
- 制作:2019年/アメリカ
- 上映時間:116分
- レーティング:R15+
あらすじ/予告編
夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンとともに夏休みを過ごすため、幼少期に住んでいたカリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れたアデレードは、不気味な偶然に見舞われたことで過去のトラウマがフラッシュバックするようになってしまう。そして、家族の身に何か恐ろしいことが起こるという妄想を次第に強めていく彼女の前に、自分たちとそっくりな“わたしたち”が現れ……。(映画.comより)
監督・スタッフ
- 監督:ジョーダン・ピール
- 制作:ジェイソン・ブラム 他
- 脚本:ジョーダン・ピール
- 撮影:マイケル・ジオラキス
- 編集:ニコラス・モンスール
ジョーダン・ピール監督作、つまり”あの”『ゲットアウト』の監督最新作。
ひいてはアカデミー脚本賞受賞受賞者の最新作!というだけで、興味をそそる映画ですね。
オレンチ
僕もその一人w
ですが、実は本作にはもう一人、強〜い味方がついているんです。
それが制作のジェイソン・ブラム。
彼がプロデュースを例に挙げると、
『パラノーマル・アクティビティ』シリーズに『インシディアス』シリーズ。
『パージ』シリーズに『ハッピー・デス・デイ』シリーズ。
『グリーン・インフェルノ』に『ヴィジット』『スプリット』『ミスター・ガラス』
当然『ゲット・アウト』も。
どうですか?どれも雰囲気似てません?
ジェイソン・ブラムはバジェット低めだけど、《ホラー要素を含んだなんか面白そうな映画をプロデュースさせるとそこそこ面白いものに仕上げてくる》名プロデューサーなんですw
オレンチ
ここに挙げていないジェイソン・ブラム制作作品はどれも同じトーンなのでブラム縛りしても面白いかも!?
撮影のマイケル・ジオラキスも同じトーンを得意とする撮影監督みたいですね。
『イット・フォローズ』や『スプリット』、『ミスター・ガラス』に『アンダー・ザ・ジルバーレイク』といった、不気味な画角を必要とする作品を多く手掛けていますので、きっと慣れた才能を発揮してくれることでしょう。
キャスト
- アデレード・ウィルソン:ルピタ・ニョンゴ
- ゲイブ・ウィルソン:ウィンストン・デューク
- ゾーラ・ウィルソン:シャハディ・ライト・ジョセフ
- ジィソン・ウィルソン:エバン・アレックス
- キティ・タイラー:エリザベス・モス
ルピタ・ニョンゴは『ブラックパンサー』のナキア役ですっかり顔なじみの方も多いですよね。
僕も『それでも夜は明ける』『ブラックパンサー』と見守ってきましたが、おそらく初!前髪のあるニョンゴちゃん!なんですよ。丸刈りもいいですが、長髪ニョンゴちゃんが何とも楽しみなんですw
オレンチ
ダナイ・グリラも『ウォーキング・デット』の方が好きだったりしますw
さらにこちらも『ブラックパンサー』のエムバク役でおなじみ、ウィンストン・デューク。普通の服を着ている姿が楽しみでありますw
感想・解説
それでは感想の方へと移りたいんですが、その前に一言…
前髪ニョンゴちゃんがさ…
テラ可愛いやん。
もともと目がクリクリだから、日本人としては(坊主よりかは)見慣れている髪型だとやはり可愛く見えてしまいますな。ごめんなさい。ただの趣味の話でした。
ドッペルゲンガーの恐怖
ではでは気を取り直して。
本作はバカンスでリゾート地へやってきた黒人家族を自分たちそっくりの”何者か”に襲われるというお話。
要するにドッペルゲンガーの恐怖ですよね。
日本でも「自分と同じ人に3回会ったら死ぬ」という都市伝説が存在したり、海外においてもTVドラマ『X-FILE』や『スーパーナチュラル』で度々扱われたりとあらゆる国でドッペルゲンガーの伝承や都市伝説が存在します。
つまり人間が一番怖いものは自分自身と対峙することであり、それはDNAレベルで私たちの中に根付いているのかもしれません。
DNAレベルで怖いと感じる題材を映画的手法を使って怖く見せるのだから怖いに決まってるんです。
しかも家族全員まとめてやってくるんだから気味が悪いことこの上ないですw
そんな本作の冒頭では<ハンズ・アクロス・アメリカ>のCMがクローズアップで映し出されます。
[box04 title=”ハンズ・アクロス・アメリカとは”]1986年にアメリカで行われたチャリティイベント。
自国の貧困層を救うため10ドルを寄付し、寄付者同士で手を繋ぎアメリカの西海岸から東海岸まで手をつなぎ合わせた人々で渡そうというイベント。
参加者は15分間手を繋いだ。
しかしこのイベントは目標の寄付金まで集まらず失敗に終わっている。
[/box04]手を繋ぐというモチーフは劇中のいたるところに散りばめられ、作品の象徴として扱われています。
例えば、
- ウィルソン一家の車には家族が手を繋ぐステッカーが貼られている
- 一家の元にやってきた”わたしたち”(以下、アス)は全員手を繋いでいた。
というように。
手を繋ぐという象徴は本作上たくさんの意味が込められていますが、ホラー的意味で解釈すると、アスと本物の繋がりを示します。
この繋がりはアスの動機であり、物語の推進力と直結します。
なぜならアスの正体は政府の実験によって生み出されたクローンであり、心を持たない彼らは本物の行動に囚われていました。
アスはなぜ凶器にハサミを使うのでしょう?
答えは、本物との縛りを断ち切るためにハサミを使うのです。
話を映画の冒頭に戻しましょう。
「ハンズ・アクロス・アメリカ」のクローズアップから遊園地のシーンへ飛ぶと、ここでインサイト・インシデント(=ツカミ)が発生します。
幼きアデレートがドッペルゲンガーと遭遇してしまうのです。
必死に逃げたアデレートは無事だったものの、PTSDを発症してしまいうまく喋ることができなくなります。
時は流れて現代。家族を持ったアデレートは再びドッペルゲンガーと遭遇した地へ戻るとそこにはアスが…。
で、
ウィルソン一家は幾度となくアス達の襲撃を交わし、撃退することで物語は展開していくのですが、ところどころアデレートが変なんですよ。
そもそもアデレートの分身であるレッドだけが喋れるのにも多少違和感を感じていたんですが、たまにアスっぽい唸り声をあげてるじゃないですか。
特に双子の姉妹をぶち殺した時なんか露骨でしたよね。しかもこの時息子のジェイソンが吠えるアデレートを意味深な表情で見ていました。
そしてアデレートがレッドを絞め殺したその瞬間、僕の違和感は確信に変わりました。
こいつや。
そう、たった今絞め殺されたのが本物のアデレート。実は1986年にドッペルゲンガー と遭遇したその日、アデレートは逃げきれてなかったんですね。
思い返せば、喋るのが苦手と発言したり示唆する暗示はたくさんありました。
インサイト・インシデントはツカミとして素晴らしい効果を発揮するのと同時に、そっくりそのままミスディレクション(人の注意をそらして真実を隠すこと)になっていたんです。
これにはやられました。
分身に乗っ取られ、精神が崩壊するほど幽閉された挙句命を奪われる…。
ドッペルゲンガーに与えられる恐怖としてこれ以上怖い展開はそうそうないんじゃないでしょうか。
ジェインソンとプルートも入れ替わったという考察もあるみたいですが、それはないでしょう。どう見てもジェイソンが不安そうな表情を浮かべていましたから。
込めらた風刺
この手の作品で込められたメッセージをひも解くのにおすすめなのが、徹底的に悪者サイドの目線で物語を見つめることです。
本作の場合、徹底的にレッドの気持ちになって考えてみてください。
自分と同じ存在がいることを知っていて、そいつは何不自由ない生活を送っている。しかし自分は地下に閉じ込められ何十年も過ごしている。しかも自分が自由になるには、同じ存在を葬らなければならない。
想像すれば想像するほど何としても自由になりたいと思いませんか。
そう考えながらレッドの「私たちはアメリカ人だ」のセリフを思い出したらハッとしたんですよ。
『Us』ってUnited Statesともかかってたんですね!
そう思うと全ては繋がりました。
アス達がなぜ<ハンズ・アクロス・アメリカ>にこだわったのか。それはアス達が貧困層としてのメタファーだからではないでしょうか。
本作のウィルソン一家は別荘持ちの富裕層。にも関わらず、さらに富裕層のタイラー一家に嫉妬し、憧れます。自分たちの下で暮らす人々を気にもせず。
つまり本作はアメリカの格差社会を風刺していたんです。
アメリカの格差社会について調べると、1980年代から徐々に貧困層は増加していったそうです。一昨年『フロリダ・プロジェクト』でも扱っていたように、今でも残り続けている問題なのでしょう。
いや、そもそも問題なのでしょうという他人事のような物言いこそ問題なのかもしれません…。反省。
ちょうど<ハンズ・アクロス・アメリカ>が行われたディケードからアメリカの格差社会は肥大化していきます。
このチャリティーイベントの実施時間は15分間。幼きアデレートが迷子になっていた時間も15分間。
アメリカ合衆国が大きく変化したタイミングと、アデレートの人生が大きく変化してしまったタイミングがリンクしている点も面白いですね。
さらに面白いのは、白人一家と黒人一家を比較的に登場させておきながら、人種の問題には一切触れない点です。その点に関してもジョーダン・ピールに一本取られたと言った感じですね。
それにしても富裕層のウィルソン一家が海岸を通って不法移民(≒貧困層)としてやってくるメキシコ側へ逃げるとはなんともパンチの効いたジョークですよね。
象徴ショット
ジョーダン・ピール監督は『ゲット・アウト』のあらゆるショットや台詞に意味を持たせたことでも高い評価を得ている監督で、本作も例外ではありません。
とりわけ、サンタクルーズのビーチを歩くウィルソン一家を捉えたある1ショットが非常に美しいんです。
その1ショットとはほぼ真上から4人を捉え、被写体は頭上しか見えない絵ですが、ライティングの工夫によって大きく伸びた影が歩いているように見せているのです。
このショットはこれから始まる恐怖を暗示している見事なショットと言えるでしょう。
さらに別荘の前までやってきたアス達の影が大きく伸びているショットも印象的でした。彼らの恐ろしさを見せつけるショットです。
また娘のゾーラが自分の影である存在に脅かされ、闇の奥へと逃げていくロングショットも印象的でしたね。
ただしホラー映画としてはどうしても、いただけないシーンもちらほら。
その代表として、アスが現れアデレートが警察に電話をしている最中のシーンです。
というのは、件のシーンは長回しでアデレートとゲイブをパン(カメラを水平に振ること)で反復させているのですが、ホラー映画の場合どこかのパンのタイミングでアスが写り込んだほうが非常に効果的だと思うんです。
長回しというのは、次に何が起こるかわからないため、集中力と緊張感を維持するときのために利用する技法なので集中と緊張を維持した状態で突如アスが現れたらそれはもうびっくりしたことでしょう。
当然そういう展開を期待し、身構えていたんですが…。ゲイブが家から出るとカット割り。緊張感は一旦リセットされてしまいます。
随所にこういった部分が見られホラーとしてのツメは甘いのかなーと思いました。