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『哭悲/THE SADNESS』解説ネタバレ感想・伏線・考察【評価】

オレンチ
オレンチ

はじめまして!オレンチと申します。

今回は2021年に公開されたロブ・ジャバズ監督による『哭悲/THE SADNESS(こくひ ザ・サッドネス)』(以下『哭悲』)についてお話していきます。

ちなみに今回はインスタグラムのフォロワーさんから、リクエストを頂いての映画評となります。

稀ではありますが、リクエストをいただけることもあって、本当に感謝の極みです。

映画評は僕なりに真剣に気持ちを込めてやっておりますので、何卒今後ともよろしくお願いいたします。

オレンチ
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リクエストも随時募集しておりますので是非よろしくお願いいたします!

というわけで前置きが長くなってしまいましたが、早速本題へと行きましょう!

注意

この記事はネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『哭悲/THE SADNESS』のネタバレ感想・解説・考察

明示的オープニングとロブ・ジャバスの短編映画

『哭悲』というタイトルから察するに、全くもってどんな内容か察することのできない作品なのですが、誤解を恐れずに『哭悲』についてまとめると<ゾンビ映画の系譜を継ぐ、ウイルスを起因としたパンデミックムービー>といったところでしょうか。

そんな『哭悲』ですが本編が始まると、非常にクオリティの高いCGによって表現されたウイルスのオープニングシーンのおかげで、これから始まる物語にウイルスが深く絡んでいるということを簡単に理解することができます。

特にコロナ禍以降の現代においては、件の映像がウイルスだと理解できない人はゼロに等しいのではないでしょうか。

さらに事件の原因と言える”変異”についてもオープニングで表現されていて、短いながらも本編の内容を明示していて、なかなか秀逸なオープニングだった気がします。

ツルッとした表現がウイルスの堅牢さを感じさせ、集合恐怖症の人にとっては身の毛もよだつオープニングですが、実は監督のロブ・ジャバズ本人が作成した映像。

さらに物語の序盤、各局が障害画面で放送が休止されている最中、唯一放送されていたアニメーションもロブ・ジャバズの『Fiendish Funnies』という短編作品なんです。

『Fiendish Funnies』は3分ほどの作品で、『哭悲』のBlu-ray特典で鑑賞することができるんですが、これがかなり趣味の悪い感じで、ディズニーアニメに登場するようなキャラクターを使って、乱交的儀式の一部始終を表現した──といった内容なんです。

しかし、ただの趣味の悪いアニメーションを作ったわけではなく、性行為を教義とし乱交のような儀式を行なっていた土着宗教は実際に存在していて、それらをモチーフにしたアニメーションなんです。

オレンチ
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三浦建太郎作のコミック『ベルセルク』でも似たような乱交的儀式を何度か観ることができます。

そういった土着宗教における性行為には神聖な役割が意味づけられていたものの、信仰心を利用して自分(教祖)の欲望を満たす、社会的規範を乱す行為のように感じてしまいます。

そう思うと至極『哭悲』のテーマと似ているような気がしますよね。

特典にはさらにもう一本『Clearwater』という短編が収録されていて、こちらは『哭悲』のウイルス変異オープニングを5億倍気持ち悪くしたようなCG映像が堪能できます。

オレンチ
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『Clearwater』は主人公の血液が蚊を媒介にモンスターの精子と混ざり、気味の悪いクローンが生まれるといった内容のホラー短編です。

これらの短編を見るとロブ・ジャバズは社会的規範に従う人々(マジョリティ)が嫌悪感を感じるような映像や脚本を得意とする作家性を持っていることが何となく見えてきます。

ホラーの根源を刺激する恐ろしさ

そんなロブ・ジャバズが『哭悲』を通じて何を描いたかというと──、普段押さえている欲求のたがを外し、欲望のままに行動する、しかもその人の最も邪悪な部分を引き出し、さらに考えうる最悪の暴力的行為を持って襲ってくる人間に変えてしまうという最凶最悪のウイルスによるパンデミックでした。

人間をモンスターに変えてしまうウイルスなのでゾンビ映画とも言えますが、従来のゾンビとの決定的な違いは『哭悲』の感染者たちは明確な意思や記憶を保ち、自分が悪いことをしている自覚を持ちながら襲ってくる点です。

これは本当に怖いです。

モンスターにおけるホラーの根源というのは、社会性から逸脱し、自分に危害を加えることが分かっている相手──要するに話の通じない相手──と対峙しなければいけない点で、ゾンビや『ジョーズ』のサメ、『エイリアン』のゼノモーフなどは社会的なルールを無視して襲ってくるから恐ろしいんです。

そんなモンスターに明確な悪意が加わり、どうすれば最も残酷か考え抜いた奴らが群をなして襲ってくるわけですから、怖くてたまりませんよね。

グロ描写にばかり目がいってしまう本作ですが、ともすると人が嫌悪感と恐怖を感じる対象はどんな存在かということを、かなりロジカル的に考え抜いた作品だったかもしれません。

オレンチ
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ちなみに『哭悲』の感染者たちは『CROSSED』というアメコミが元になっているらしいです。

そんなウイルスによって生み出された感染者の中に、一際目立つキャラクターが生成されています。

それというのがジョニー・ワンという俳優が演じるビジネスマンというキャラクターです。こいつにキャラクター性を持たせ、ともするとメインヴィランのような扱いをすることにロブ・ジャバズの嫌らしい作家性をひしひしと感じてしまいます。

ビジネスマンは感染前の状態で、主人公のカイティン(レジーナ・レイ)にセクハラ行為を行うという、何とも卑劣な人物として映画に登場します。

さらにカイティンがビジネスマンを拒絶すると、手のひらを返したようにブツブツと文句を垂れるという下劣に対して非の打ち所がないキャラクターでした。

要するに感染前の状態で、実社会に存在するであろう嫌悪感MAXな人間性を描き切っているわけなんですよね。

そいつが前述したウイルスに感染し、執拗にカイティンを強姦と殺人目的で追ってくるわけですから、ビジネスマンから迸る嫌悪感は最大級のものになりますよね。

嫌悪感を与えてこそナンボな映画なので、このアプローチはロブ・ジャバズの作家性を表現するには大正解だなと思いました。

オレンチ
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ちなみにジョニー・ワンはビジネスマンをメソッド演技法(キャラクターを自身に憑依させるような演技法)で演じ、しばらくキャラクターが抜けなかったと言っていたので、なかなか笑えないおっさんだなと思いました。

編集の荒さ

ここまで肯定的に『哭悲』について肯定的にお話をしてきましたが、ここから先はちょっと否定的な意見も。

まず一つ目として、ところどころで編集の荒さのようなものが目立っていたような気がします。

例えばカイティンの彼氏・ジュンジョー(ベラント・チュウ)が隣人のリンさん(韻を踏んだわけではない)と格闘の末、トースターで渾身の一撃を喰らわすシーン。

一撃の瞬間はジュンジョーが何でリンさんに攻撃したのか全くわからないんですよね。この場合、攻撃する直前にトースターのコードを握るインサートショットを入れると、誰が見てもトースターで攻撃したことを理解することができます。

一撃の後、リンさんを跨ぐシーンでトースターだということが分かるようになってはいるのですが、数秒のインサートショットがあるかないかで、一撃のショットの面白さは格段に変わります。

何で攻撃したのか後でわかるよりも、事前に知っていた方が、その一撃の重さや殺傷性が想像しやすいからですね。

オレンチ
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件のシーンについてはロブ・ジャバズ自身が本編の解説で語っていました。

さらにもう一つ、『哭悲』にはエスタブリッシングショットの漏れを感じます。

《エスタブリッシングショット》とは、これから描かれる一連のシーンが、どのようなロケーション(場所)で行われるかを明示するショットのことで、例えばマンションの1室でお話が進行するのであれば、マンションの建物をロングショット(空撮など)で写したショットのことです。

コロナ禍の真っ只中に撮影されたこともあって、建物内で撮影する許可が降りず、室内のシーンはほとんどセットを組んで撮影されていて、地下鉄のセットは言われなければわからないくらいクオリティが高かったのですが、個人的に病院のセットは正直イマイチを感じてしまいます。

大学病院みたいな大きな病院なのにも関わらず、正面玄関から入ってすぐに存在する謎の待ち受けスペースのせいで、ちょっと大きな町医者の受付くらいにしか見えないんですよね。

とてもじゃないけど、ヘリポートのある大学病院には見えないです。

セットで作るには限界があるし、バジェットも限られているので致し方ないようなことにも感じますが、思い切って玄関はカットするなど、工夫次第で大きな病院に見せることは可能だと思います。

そこでさらに気になってしまったのが、病院のエスタブリッシングショットで、下から煽るようなエスタブリッシングショットで病院の大きさを表現していましたが、後でヘリポートが重要な場所になることを鑑みると、ヘリポートがあるということがわかる見下ろすような──空撮的な──エスタブリッシングショットを入れるべきだったのかなという風に思います。

雑なウイルスの扱い方

さらにもう一つ、『哭悲』で気になった点を挙げると、あまりにもウイルスに対しての扱いが雑すぎます。

どういうことかと言うと、ウイルス専門家を謳う人物が、明らかに感染源である血液を目の前にして、あろうことかマスクとゴーグルを外し、再び装備する際もベタベタとマスクの内側を触るという、専門家としてはあるまじき行為を連発してしまっているんですね。

ウイルスをテーマにした映画で、ウイルス専門家として登壇し、あまつさえコロナ禍以降の今となっては、専門家でなくても気を使うところなのにも関わらず、万全な対策ができていない行動を見るとあまりにも滑稽に見えてきてしまいます。

オレンチ
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俳優の顔を映したいと言うことも含まれていると思うのですが、そう言うのならばディズニープラスの『マンダロリアン』を見て学んでほしいですw

さらにカイティンに抗体があるからといって、ウイルスを注射した直後の彼女に、防具なしで近づいて会話をする行為をしていましたが、危機管理能力があまりにも低すぎます。

ウイルス専門家だけでなく、ましてや『哭悲』だけの話ではないですが、その道のプロが見たらどこまでも荒が見えてしまうのは、致し方ないことですが、ちょっと『哭悲』のウイルス専門家は幼稚度が目をつぶれないほどノイズになってしまいました。

ちなみにラストでカイティンが涙を流しているシーンを見て、「カイティンも感染した?」との憶測が飛び交っているようですが、これ全くの誤解で、ジュンジョーの変わり果てた姿にただただ悲しみを感じて涙を流しているだけだそうです。

なので、涙を流してヘリポートに現れたカイティンが、感染者と誤解されて射殺されてしまった。という意地の悪いバットエンドの良さを引き出しているんですね。

オレンチ
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本作の場合、意地の悪いなどの表現は褒め言葉ですw

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