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『THE BATMAN ザ・バットマン』解説ネタバレ感想・伏線・考察【評価】

オレンチ
オレンチ

はじめまして!オレンチと申します。

今回は2022年に公開されたマット・リーヴス監督の『ザ・バットマン』についてお話ししていこうと思います。

ザック・スナイダー監督によって生み出されたベン・アフレック版のバットマンが記憶に新しいですが、今回は『TENET』で強力な存在感を残したロバート・パティンソンに選手交代。

一体どんなバットマンに仕上がったのでしょうか。

というわけで早速ですが本題へと進んでいきましょう!

注意

この記事はネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

『THE BATMAN ザ・バットマン』のネタバレ感想・解説・考察

リブートについて回るマンネリ問題

もう「何度目だ」と感じざるにはいられない、DCコミックが誇るダークナイト・バットマンの実写映画作品。1989年に公開されたティム・バートン版『バットマン』を1作目として数えると(実写映画としては第1作)本作『THE BATMAN ザ・バットマン』は実の10作目となります。

ジェームズ・ボンドといえばどの俳優?という問いに答えれば自ずと年齢が導き出せるように、バットマンも印象に残っている俳優を挙げるだけで世代がわかってしまうくらい襲名を繰り返していますね。

こう何度も繰り返し映画化を重ねてくると心配になるのがマンネリで、とりわけオリジン(ヒーローへと成長するルーツで、リブート後の1作目はだいたいオリジンを描く)となると最早バットマンのルーツは周知の事実なのでよほど斬新なことをやらない限り、マンネリは避けられないです。

オレンチ
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俳優や雰囲気を変えたくらいではマンネリを拭えない気がしますね。

オリジンによるマンネリを語ると蘇るのが『アメイジング・スパイダーマン』の悪夢で、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズが中断されてしまった背景には少なからずマンネリが影響しているはずです。

リブートによるマンネリを上手くかわしたのが『スパイダーマン:ホームカミング』で、その方法というのが「オリジンを描かないこと。」という灯台下暗しな方法によってスマッシュヒットを飛ばすシリーズになりました。

オレンチ
オレンチ

実はトムホ版の『スパイダーマン』も三部作を通じてオリジンを描いているのですが、それについては後述します。

本作『THE BATMAN ザ・バットマン』も俳優が変わり、前作となる『ジャスティス・リーグ』とも世界観を共有してないことから、広義の意味ではリブート作品ということになります。

では本作もオリジンを避けてバットマンを描くのかと思っていたのですが、しっかりとオリジンを描いた作品でした。

自論ですが、アメコミヒーロー映画には肉体的オリジンと精神的オリジンの2種類があり、本作は後者について強力に描いた作品だったと思います。

肉体的オリジンと精神的オリジン

肉体的オリジンというのは文字通り肉体的なルーツのことで、どのようにしてスーパーパワーを手に入れたのかということを描きます。

例えばスパイダーマンなら蜘蛛に噛まれたことがきっかけで、ハルクなら致死量のガンマ線を浴びたためですよね。バットマンはそもそもスーパーパワーを持たないので肉体的オリジンを描くことが難しいかもしれないですが、強いていうのであれば「両親を強盗に殺されたため、修行によって超人的な戦闘能力を身につけた」といったところでしょうか。

このバットマンの肉体的オリジンをテーマに描いていたのが『バットマン ビギンズ』ですね。

ちなみに実写映画で肉体的オリジンを描くことで成功した初期の作品がライミ版の『スパイダーマン』でその後『バットマン ビギンズ』や『アイアンマン』と後のアメコミ作品もオリジンを描く流れを作っていくことになります。

では精神的オリジンとは何かですが、これは「スーパーパワーを使って何を成すのか?自分の使命とは?」が成熟することを指します。

基本的にアメコミヒーロー映画というものは、肉体的オリジン→精神的オリジンという流れで1本の映画として語られることが多く三幕構成に例えると<一幕>と<二幕>のターニングポイントが肉体的オリジン、エンディングに精神的オリジンという配置になるかなと思います。

起承転結で言えば、<起>が肉体的オリジン、<結>が精神的オリジンといったところでしょうか。

例えば前述したライミ版の『スパイダーマン』や『バットマン ビギンズ』ではクライマックスで私生活を捨て、ヒーローとしての道を歩むことを選びますよね。この瞬間がヒーローとしての精神的なオリジンであり、精神的オリジンを経てようやくヒーローとして完成するのだと僕は考えています。

表裏一体の危うい存在

では『THE BATMAN バットマン』が精神的オリジンを強力に描いたとはどういう意味なのでしょうか。

ご存知の通り『THE BATMAN バットマン』では見た目上(表面上)のバットマンは完成しており、ゴッサムシティの自警として2年目を迎えています。

キーとなるのは自称のセリフです。

ブルース・ウェインはコウモリのスーツを身に纏い、自身のことを「復讐」と呼びますよね。つまりこの時点ではまだバットマンではなく、両親を惨殺された復讐として犯罪を根絶やしにしようとしているわけです。

重要なのは「復讐とは自分のためである」ということです。

さて本作にはもう一人自分のことを「復讐」と呼ぶ人物がいます。それというのがご存知エドワード・ニグマこと”リドラー”です。リドラーは嘘で塗り固められたゴッサムシティのトップたちに絶望し、暴力によって街を正そうとしていますよね。

要するにブルース・ウェインとエドワード・ニグマの思想の根底にあるものは同じであり、ただ暴力の向ける矛先が違っただけなんです。

つまり本作においてブルース・ウェインとエドワード・ニグマは表裏一体の存在なわけです。

もしどこかで道を誤っていれば、ブルース・ウェインもリドラーのような思想を持っていた可能性は十分にあり、そんな危うい状態のブルース・ウェインを濃厚に描いたのが本作『THE BATMAN バットマン』なのだと思います。

第一印象ではスーツを脱いだ状態でも陰気くさいブルースがあまり好きになれなかったのですが(ブルースの状態ではプレイボーイを演じるため)まだ精神的オリジンを通過していない危うい状態だと思えばそれも納得です。

その証拠にリドラー(模倣犯)が自分と同じ「復讐」とうセリフを放った時にブルースは酷くうろたえ、取り乱します。まるで違う世界線の自分を見ているかのようでしたよね。

ここで初めてブルースは自分の危うさに気づき、ヒーローとしての通過儀礼を行うことになります。

その通過儀礼というのが人命救助ですね。本作のクライマックスでは洪水によって身動きの取れなくなった人々を扇動して救うバットマンの姿を見ることができます。

つまり他人のために自己を犠牲にしたわけです。ヒーロー活動が私情(復讐)から世情に変わった瞬間です。

自論ですがヒーローとしての大原則は自己犠牲にあり、命を賭して他人を守ることこそヒーローたらしめる行動だと思います。こうして精神的オリジンを経て、ようやく本作のブルースは「バットマン」と名乗るようになるのでした。

そう思うと次作のスーツを脱いだブルースはプレイボーイな姿が見れるのかな?ちょっと期待です。

何と比較すべきか

ここまで語ってきた通り、本作はブルース・ウェインの精神面にスポットライトを当てた作品なので他の『バットマン』作品と比べると、どうしても地味な印象になりがちかと思います。

ということはつまり、他の『バットマン』作品と比べること自体ナンセンスなのかもしれないですね。それよりも似たようなジャンルの横軸で比較したほうが、もっと面白い見え方ができそうな気がします。

そもそも原作の初期である”探偵モノ”に舵を切った作品でもあるので、印象が違うのは当たり前ですよね。探偵モノに舵を切るにあたって確実に参考にされているのがフィルム・ノワールというジャンル。

モノクロ映画時代の1940年代〜50年代に全盛期だった犯罪映画のことで、私立探偵が主人公であることが多いのも特徴的です。

モノクロという選択肢は選ばなかったものの、本作で”黒”にこだわりがあるのは明らかですよね。画面が”暗い”ではなく”黒い”という印象を受けます。同じ黒でもこんなにコントラストが出るんだなと。

おそらく『マッドマックス:怒りのデス・ロード』のクロームエディション(『マッドマックス:怒りのデス・ロード』を全編モノクロに再編集したもの)と同じく、『THE BATMAN バットマン』もモノクロバージョンを再編集してくれれば、全く違う素晴らしい作品が出来上がると思います。

フィルム・ノワールのもう一つの特徴として、ファム・ファタールという女性が登場することがあります。このファム・ファタールとは主人公を惑わす謎めいた女性の総称で、完全無欠な私立探偵の主人公を惑わすことで物語に動きを生ませます。

ファム・ファタールに惑わされる良い例としてフレンチ・ノワールの傑作『サムライ』などがあるでしょう。

本作におけるファム・ファタールはもちろんセリーナ・カイルで、彼女もまたキャットウーマンへと本作の歩みで成長していくことになります。

というわけで本作は他のバットマン映画と比べるよりも『マルタの鷹』(41)や『キッスで殺せ!』(55)などのフィルム・ノワールの傑作とされる作品と比較してみるとより面白い発見があるのかもと思いました。

個人的にはクリント・イーストウッドの『ダーティ・ハリー』感がとても強い作品だなと思います。

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