こんにちは。オレンチです。
今回は『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』の感想行ってみようと思います。
感想・解説・考察
●ドラゴンのデザインについて
オードリー春日の起用により日本でのマーケティングに失敗した傑作『ヒックとドラゴン』(10)の続編『ヒックとドラゴン2』(14)は日本での公開は一時的にスルーされ、署名運動が発生。ソフト化さえも危ぶまれました。
あまりにも1作目の『ヒックとドラゴン』(10)が心に刺さり、日本でのソフト化が待てなかった(というか情報がなかった)ため、当時はまだ珍しかった北米版『ヒックとドラゴン2』のBlu-rayを取り寄せたのはいい思い出。
そんなわけで世界的に評価が高いのにもかかわらず、日本では不遇だった『ヒックとドラゴン』シリーズ3作目はギャガさんによってなんとか公開まで漕ぎ着けました。(ありがとうギャガさん!)
本作は北欧を舞台にバイキングとドラゴンが織りなす物語で、イギリスの作家クレシッダ・コーウェルによる絵本が原作。
監督はつぶらな瞳が印象的なディーン・デュポアで、『リロ・アント・スティッチ』(02)を成功させて以来、『ヒックとドラゴン』(10)、『ヒックドラゴン2』(14)、『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(19)と本シリーズに命を掛けている監督です。
本作の制作に携わるアニメーターはまず動物航空科と呼ばれている研究サークルに送られるらしく、ここであらゆる生物の飛び方を研究させられているらしい。
ちなみにトゥースの飛び方はツバメを、イボイボでぽっちゃりのグロンクルはハチドリだそうな。飛び方のディティールまで目を凝らすとまた面白そうですね。
ドラゴンのデザインも基本的には実在する動物から取っているみたいで、トゥースは黒豹と山椒魚、アスティが乗るデッドリー・デリンジャーはオウムから着想を得ていました。
●昔はドラゴンがいたらしい
さて物語はバーク島の島民全員をひっさげた引越しの話で、ヴァイキングというモチーフにとって至極最もなテーマなのです。
というのもヴァイキングとは移民の民であり、船で移民を繰り返すことで勢力を広げてきた民族。
北欧神話がモチーフの『マイティ・ソー/バトルロイヤル』(17)で視聴者のテンションをぶち上げしたレッドツェッペリンの『移民の歌』はヴァイキング──ひいては北欧を歌った歌なので、同作のサウンドトラックにサンプリングされたわけです。
またヴァイキング=海賊というイメージが強く、海賊には略奪のイメージがついて回るため、『ゲーム・オブ・スローンズ』のグレイジョイ家はヴァイキングから着想を得ているのかななんて思ったりもしています。
んで、なぜヴァイキングたちは移民を繰り返したのかといえば、諸説ありますが人口の増加が原因という説があります。
本作でヒックたちバーク島の民が新天地を目指す理由と同じなんですよね。
つまり3作目にして『ヒックとドラゴン』というシリーズは現実の歴史とリンクが発生し、原作の絵本でも言及されている「昔はドラゴンがいた」という御伽話的な展開に着地していきます。
「昔はドラゴンがいた」という着地点に向かっていくため、必然的に人間とドラゴンは別れる話になっていき、流れの中で《自立》や《個性の尊重》というメッセージが見て取れるのかなと思います。
《個性の尊重》という意味で最も印象的だったセリフは「バーク島は島ではなく民」というセリフで、『マイティ・ソー/バトルロイヤル』(17)でも同等のセリフがあったことからヴァイキングの精神なのかな?
そういえば『ゾンビランド:ダブルタップ』(19)も同じような着地だったし、最近流行ってんのかな?
ヒックとアスティが幻の聖地を見つけるきっかけがただの偶然だったり、捕虜となったラフが解放される理由がうざいからだったり、実はラフを尾行することが目的の解放という今更誰が引っかかるんだ?という作戦に「私は振り返らない」とぶった斬ったりと、物語の展開は非常にサッパリとしていますが、逆にこのわかりやすさが好印象でした。
●冗長にイライラ
引越しということで筋運びはロードムービー的な流れを踏みますが、冗長的な部分も目立っていて印象が薄い作品でもあり、ここから少し酷評していきます。
というのも本作のヴィラン、凄腕ドラゴンハンターのグリメルがバーク島に単身で襲撃してくるシーンがあります。
あのシーンの冒頭では暗がりでゆっくりとした会話劇、後半はグリメルのドラゴンによって炎が燃え盛る激しいシーンへと変わっていきます。
そのちょっと後、今度は逆にヒックたちがグリメルを襲撃するシーンと酷似しちゃってるんですよ。
前者のシーンと繋がりを思わせるような気の利いたセリフや、描写がないため映画における反復と呼ぶには至らず、ただ似ちゃってるだけ。
炎に巻かれてヒックたちは逃げるというシーンの着地も同じでした。
もう一つ言及するなら、グリメルの使う毒矢について。
お前の手札はそれしかないんけ?
ヒックサイドもヒックサイドで、何度も同じ攻撃でピンチに陥ってイライラ。
まぁ僕のイライラは置いといてもこれだけ同じ手数、同じピンチを繰り返すとそのショットやシーンに真新しさはなくなり、印象が残りづらい映画になっちゃうんすよな。
ただでさえ海の上を移動するシーンが圧倒的に多く、背景は海と空と雲なので印象に残りづらい絵ばかりなので薄い作品になってしまっていることは否めないかなと思います。
●カメラはどんどん遠ざかる
ただCGの進化は目覚しく、新しいCG作品が生まれるたびに語っているような気もしますが、やっぱり触れずにはいられないですよね。
とりわけ本作のCG技術はサイレント映画にも耐えうるレベルまで進化したのかなと感じました。
本作はトゥースとライト・フューリーのロマンスの物語でもあるので、2頭のシーンはほぼサイレント映画状態になってしまいます。
しかしながら2頭の動物的表現力や、背景があまりにも美しいので楽しく見れちゃうんですよね。
特に砂がすげぇの。
トゥースとライトが初めて心を通わせるシーンは砂浜が舞台ですが、砂浜の再現力が半端じゃなかったですね。
また面白いのがCG技術の発展で他のアニメーション作品はどんどんカメラを近づけているのに対し、本作はどんどん遠ざけている点です。
どういうことかというと、『モンスター・ホテル』シリーズや『トイ・ストーリー』シリーズはCGの技術が発展するにあたり、キャラクターたちの表情を捕らえたアップショットが増えていきました。
この理由はより細かな表情を再現できるようになり、微妙な感情を表情で伝えることができるようになってきたため。
つまりCGはどんどん演技ができるようになってきているわけ。
これに対して、本作は超ロングショットを用いることで雄大な自然を映し出し作品のイメージを表現していました。
ちなみにヒックとアスティが幻の聖地を訪れ、イルミネーションが鮮やかなシーンですがまごうことなき4KUHD案件だったので、環境がある人はぜひ4KUHDで観賞してみてくださいね!
スタッフ
- 監督:ディーン・デュポア
- 制作:ボニー・アーノルド、ブラッド・ルイス
- 脚本:ディーン・デュポア
- 原作:クレシッダ・コーウェル
- 音楽:ジョン・パウエル
キャスト
- ヒック:ジェイ・バルチェル
- アストリッド(アスティ):アメリカ・フェレーラ
- グリメル・ザ・グリズリー:F・マーレイ・エイブラハム
- フィッシュ:クリストファー・ミンツ=ブラッセ
- ゴッバー・ザ・ベルヒ:クレイグ・ファーガソン
- スノットロート・ヨーゲンソン:ジョナ・ヒル
- ラフナット・ソーンストン:クリステン・ウィグ
- タフナット・ソーンストン:ジャスティン・ラップル
- エレット:キット・ハリントン
- ストイック・ザ・ヴァスト:ジェラルド・バトラー
- ヴァルカ:ケイト・ブランシェット