こんにちは。オレンチです。
今回は『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』の感想行ってみようと思います。
感想・解説・考察
●映画は時代を投影する
デヴィッド・エアーによって大爆死を遂げた『スーサイド・スクワッド』(16)がまだ記憶に新しい中、早くも同作から飛び出したハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)による単独作が登場です。
そもそも『スーサイド・スクワッド』(16)の好きな点を述べるなら「ハーレイ・クインが良かった」の一言で完結できるくらいだし、世間的に考えても公開後のハロウィンでは渋谷がハーレイ・クインで埋め尽くされたように、その人気を持ってすれば本作が生まれることは必然的なのかもしれません。
というか『スーサイド・スクワッド』(16)の出来があれだけ悪かったのに、内部のキャラクターがこれだけ独り立ち出来た作品も珍しいんじゃないかな。
そんなダイヤモンドの原石的なキャラクターの運命を握るのは新星監督のキャシー・ヤン。
前作『Dead Pigs(デッド・ピッグス)』(18)の評判が良かったことで、長編デビュー2作目にして本作の監督を任されました。
脚本は『バンブルビー』(18)のクリスティーナ・ホドソン、プロデューサーはマーゴットロビー、スー・クロールと女性が多めな布陣。
キャストは主演のマーゴットロビーをはじめ、『スカイ・ハイ』(05)や『デス・プルーフ in グラインドハウス』のメアリー・エリザベス・ウィンステッド、『ハンズ・オブ・ストーン』(16)のジャーニー・スモレット=ベル、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)のロージー・ペレスとメインキャストは当然女性で埋め尽くされており、つまりは最近流行のあれ。
そうポリコレです。
40年代は戦争を鼓舞するプロパガンダ映画が、50年代〜60年代は冷戦と核の驚異からスパイ映画やポストアポカリプス映画が、60年代〜70年代はベトナム戦争などで政府に反発するようにニューアメリカンシネマが、というように映画(特にハリウッド)は時代を投影するもので、2010年代〜2020年代のディケードはポリコレ映画で決まりですね。
ただポリコレ作品にもいろいろあって、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)や『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(17)のような先人から学ぶありがたいもの。
『メン・イン・ブラック:インターナショナル』(19)や『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19)のようにMENをWOMENに変えるようなクソみたいなギャグで攻めてくるものなどなど。
それでいうと本作はどちらにも属していないような気がします。
何ていうか、ポリコレ特有の主張が押し付けがましくなく、ただただ純粋に「女性陣でエンタメ映画を撮ったで!」って感じ。
これこそあるべき姿なのかな〜なんて思ったりもしますねー。
何かを主張している状態はまだそこに問題が隠れていて、そういったしがらみがなくなって初めてあるべき姿になるのかなと思います。
少なくとも「MENをWOMENに・・・」みたいな、《差別に対して差別で対抗》しているような状態ではなんの結果も生み出さないですね。
ついに主張する時代は終わりました。
というわけで2010年代のディケードは「ポリコレ主張時代」、2020年代のディケードは「ポリコレ成就時代」となるでしょう!
●それぞれの戦闘スタイル
ちゃんと中身にも触れていきますよっと。
ジョーカーのことを忘れるために思い出の化学工場を爆破しタイトルコールとなりますが、「化学工場の爆破」を思いついた時の表情が100億点でした。俺にはマーゴット・ロビーの頭の上に電球マークが見える。
化学工場を爆破したことで、ジョーカーと別れた宣言を大々的に打ち出したがため、狩猟解禁となってしまったハーレイ・クインの命をゴッサム中の悪党が狙い、ブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)に初めて出会った朝も、男二人が泥酔クインをお持ち帰りしようとしてました。
ただね。あの朝って化学工場を爆破する1週間前なんすよな。つまりはまだハーレイ・クインはジョーカーの女ということになっているので、あのお持ち帰り野郎二人組は、喧嘩の腕はいまいちだったけど相当キモが座っていることになります。
まぁ脚本のミスなんでしょうが。
ダイヤを呑み込んじまったカサンドラ・ケイン(エラ・ジェイ・バスコ)を追ってゴッサム市警にハーレイ・クインが乗り込んだ辺りから本格的にアクションが解禁されるんですが、スプリンクラー降り頻る柵の部屋で繰り広げられる格闘アクションにサブイボが。
100人いたら95人くらい引き合いに出すであろう『ワンダーウーマン』(17)や『キャプテンマーベル』(19)に引っ張られてる臭いがムンムンするし、至極ヒーロー的な拳と片膝を地面について顔をガッとあげるあのショットはなんなん?
ハーレイがあれをやると寒気で気絶しそうになります。
全体的にスプリンクラーでの戦闘シーンはお利口さんすぎるんですよね。
ちゃんとした道場で闘う術を習ってきたような戦い方で、ハーレイの持つポテンシャルとはまるで合ってない。
あとひとつ、ハーレイにスローモーションは似合わねぇ。
監督もしっかり気づいたのか、その証拠にスプリンクラー以降のシーンではほぼスローモーションのショットは0となっています。
キッチリ闘うんじゃなくてハーレイには道化らしくもっと道具を使って欲しいんですよ。
ただアクションが嫌だなと思ったのはこのシーンだけで、残りのアクションは概ね好印象でした。
特に終盤ビックリハウスで魅せるアクションシーケンスは最高でした。
何が良いって、ごくごく自然な流れで共闘することを余儀なくされた4人(この流れも最高!)の格闘スタイルがそれぞれキッチリと分けられている点です。
ハーレイ・クイン(マーゴットロビー)は予測不能なトリッキーな動きで相手を翻弄し、バットやハンマーなど道具で蹂躙。後半にはローラースケートでさらにトリッキーに。
ハントレス(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は軍隊仕込みのような戦闘スタイル。
ブラックキャナリー(ジャーニー・スモレット=ベル)は脚がメインのカポエラスタイル。
レニー・モントーヤ(ロージー・ペレス)はメリケンサックをはめたボクシングスタイル。
といった具合。
それにしてもメアリー・エリザベス・ウィンステッドも歳を取りましたなぁ。なんと言うかうまく言えないけど本作にはリンダ・ハミルトンっぽさが見えるぞ。(ちなみにメアリーちゃんのお気に入りは『スカイハイ』(05)ですので興味があったら観てね!)
●女 vs 男
本作のヴィランにも触れておきましょう。
本作のメインヴィランは、バットマンのヴィランとして幾度となく登場するローマン・シニオス a.k.a ブラックマスクで、演じるのはユアン・マクレガー。
ユアンの悪役って珍しいんじゃないかな?すげー情けない悲鳴をあげて四肢が吹き飛ぶ姿も本作くらいしか見れません。
ちなみにブラックマスクのビジュアルはバットマンの名作ゲームシリーズ『バットマン:アーカムビギンズ』に登場するブラックマスクと瓜二つなので、こちらもぜひプレイしてみてね。(デスストロークがヴィランで登場するクソ熱いゲームなんだな!)
そして彼の右腕として登場するのがミスター・ザーズ(クリス・メッシーナ)。
殺した相手の数を体に刻むというサイコな野郎なんですが、クリストファー・ノーランの『バットマンビギンズ』にもチラッと登場していることはあまり知られてないでしょう。
対立関係をよくみてみれば、ちゃっかり「女 vs 男」の構図が出来上がっていました。
そんな本作のクライマックスはゴッサムにかかるとある橋。
この橋もよく目を凝らすと、両端を男どもの銅像で埋め尽くされているんですよな。何でもゴッサムを作った男性たちらしく、男たちが作った社会へ風穴を開けるメタファーとなっています。
●ビックリハウス最高!
最後はセットについてちょっとだけ。
ローマンのバーとクライマックスのビックリハウスが何とも素敵でした。
ローマンのバーは所々ブラックマスクを象徴するようなオブジェが置かれており、とりわけ目についたのが「みざる、きかざる、いわざる」的なマネキンヘッド。なんかおしゃれだよね。
最後にビックリハウスですが、これまたジョーカーらしさハーレイらしさを最大限に引き出した「わかってる!」的なセットでございました。
多分『バットマン:アーカム』シリーズをプレイしている同志は全員懐かしさを感じたはず。
それぞれびっくりハウスに設置されたギミックもさることながら、絶妙な廃墟感が心をくすぐってきます。
とりわけチカチカする電飾の電球が足りてないあたりが素晴らしいぞ!
というわけで、実は精神科医っぽいことを言っているハーレイとか、コツを教えてもらった縄ぬけを後半でうまく使っている件とか、ハイエナブルースの空気感とか、他にも書きたいことはあったんですが、入れる場所わかんなくなったんでこれにておしまい!
スタッフ
- 監督:キャシー・ヤン
- 制作:マーゴット・ロビー、ブライアン・アンケレス、スー・クロール
- 制作総指揮:デヴィッド・エアー
- 脚本:クリスティーナ・ホドソン
- 撮影:マシュー・リバティーク
- 編集:ジェイ・キャシディ
- 音楽:ダニエル・ペンバートン
キャスト
- ハーリーン・クインゼル/ハーレイ・クイン:マーゴット・ロビー
- ヘレナ・バーティネリ/ハントレス:メアリー・エリザベス・ウィンステッド
- ダイナ・ランス/ブラックキャナリー:ジャーニー・スモレット=ベル
- レニー・モントーヤ:ロージー・ペレス
- カサンドラ・ケイン:エラ・ジェイ・バスコ
- ビクター・ザーズ/ミスター・ザーズ:クリス・メッシーナ
- ローマン・シニオス/ブラックマスク:ユアン・マクレガー
- パトリック・エリクソン警部:スティーヴン・ウィリアムズ
- ミスター・キオ:フランソワ・チャウ
- エリカ・マンソン:ボヤナ・ノヴァコヴィッチ