こんにちは。オレンチです。
今回は『ジョジョ・ラビット』の感想に行ってみようかと思います。
感想・解説・考察
●タイカ・ワイティティと言う予測不可能性
第二次世界大戦後期のドイツでナチス党を崇拝する少年ジョジョ・ベッツラー(ローマン・グリフィン・デイヴィス)が、自宅に潜んでいたユダヤ人の女の子エルサ・コール(トーマシン・マッケンジー)と心を通わせていくハートフルな物語なのだけれど、ジョジョのイマジナリーフレンドが総統アドルフ・ヒットラーというトンデモ設定が他のホロコーストを扱った作品と一線を画す本作。
ちょっと本題に入る前に言っておきたいことがあります。
僕は監督やその他スタッフ、出演者たちが本編映像に沿って作品を解説する「音声解説」を好み、解説が付いている作品はよく目を通すのですが、控えめにいってもタイカ・ワイティティの音声解説が異次元すぎました。
『マイティ・ソー/バトルロイヤル』(17)の音声解説ではタイカ・ワイティティの自宅で収録され、タイカの娘が出演(声のみ)という予測不可能な展開に発展し、本編よりも驚きの展開を迎えました。
『マイティ・ソー/バトルロイヤル』(17)の収録があまりにも適当だったがためか、本作の音声解説はFOX社に呼び出されて収録されておりました。
ようやく真面目な解説になると思いきや「僕は音声解説が苦手だ」と豪語し、解説をしない斬新なスタイルを取り、一人では寂しいとタイカ自ら出演者へ片っ端から電話をかける予測不可能な展開に発展しました。
普通、音声解説というのはそのシーンに合わせて裏話や経緯、込めた想いなどを語ってくれるのですが、本作の場合はシーンをガン無視し、監督と出演者の質疑応答コーナーへと変貌。
なんなら長身のゲシュタポを演じたスティーブン・マーチャントの方がよっぽど解説らしい解説をしておりました。
レベル・ウィルソンに至ってはFOX社へ向かう運転中に電話を受けたらしく、ちょっと後に収録している部屋まで現れます。
ちなみに解説に登場する出演者は、ローマン・グリフィン・デイヴィス、スティーブン・マーチャント、サム・ロックウェル、レベル・ウィルソン、アルフィー・アレンの5人。スカヨハはやっぱり忙しいのだろうか。
しかし困ったことにこのタイカの解説は楽しいですわ。
タイカ・ワイティティという予測不可能性はコメンタリー(音声解説)さえも演出します。
だもんでソフトを持っている方は是非とも音声解説を楽しんでみてください。
ただ少ないながらも解説らしい解説もしていて、中でも最後の最後で言った言葉はなかなか刺さりました。
というのは本作を作った理由が「ナチスの悪行を思い出させるため」という観る前から誰もがわかっていたような内容なのだけれど、2018年の調査で若い世代に「アウシュビッツって知ってる?」と質問したところ46%もの人が「知らない」と答えたそうな。
「この事実は僕たち作家の努力が足りない」と言ってのけたタイカ・ワイティティに拍手を贈ります。
●ジョジョはヒーローになった
さてさて少しずつ内容に入って行こうと思うのですが、タイカの音楽サンプリングが良いよなぁ~。
思えば『マイティ・ソー/バトルロイヤル』(バトルロイヤルと言う邦題が死ぬほど嫌い)の冒頭とクライマックスでブチ込んだツェッペリンの『移民の歌』も最高でしたね。
本作では、とりわけ冒頭のビートルズ(ドイツ語版)と締めがデヴィット・ボウイが秀逸。
冒頭のビートルズは『意思の勝利』(35)をはじめとするプロパガンダ映画や記録映像を背景に流され、まるでビートルズに熱狂しているかのようにナチスを崇拝する当時の情勢を開始数分で表現しております。
一歩引いてみてみれば随分狂った状況なのだけれど、当時の人々は本気でヒトラーやナチス党がドイツを救うと思っていたんですよね。
バックヤードには第一次世界大戦の敗北があったりするのですが、ここら辺はロバート・カーライル主演でナチス党の黎明期を描いたTV映画『ヒットラー』(03)が大いに参考になると思うのでぜひどうぞ。
そんな情勢下だから必然的とも言うべきか、ナチスのため前線で戦うことを夢見る少年ジョジョが、兵士になるためのキャンプに参加するまでが冒頭の流れ。無邪気(というか無知)にナチス式敬礼をする姿が何とも印象的だったな。
このキャンプで登場するのがオスカー俳優となったサム・ロックウェルが演じるキャプテン・Kことクレンツェンドルフ大尉と、『ゲーム・オブ・スローンズ』から解放され俳優として生き生きとし出した(本人談)アルフィー・アレン。あとレベル・ウィルソン。
このキャプテン・Kがいい味だしてるんだよな。
キャプテン・Kは恐らくゲイなので、ユダヤ人のエルサと同様にホロコーストの対象なんすよな。
皆が熱狂しながら焚書しているのを懐疑的な目で見ていたりと、ナチス党のことを良く思っていない描写が随所に見られるし、ゆえにエルサを助けてくれるんですよなぁ。
キャプテン・Kのキャンプで手榴弾をもろに浴び、戦場に行くことが叶わなくなったジョジョは仕方なくベルリンで広報活動をする羽目になり、家にいることが多くなったことがきっかけとなり物語の中盤あたりでエルサを発見。
エルサと共に過ごす傍らで広報活動をしていくんだけれども、鉄くず回収を行った際にジョジョが着ているメタルマンの角と鼻がSS(ヒトラー親衛隊)の「S」。
芸がこまけぇ。
ソ連とアメリカに街は攻め込まれることになり、ついにナチスドイツは敗北を喫し、ジョジョの手引きでエルサはついに家を脱出する。
自由の象徴として用意されたダンスで幕を下ろすのだけれど、ダンスに使われる曲がデヴィット・ボウイの「ヒーローズ」。
つまりジョジョはエルサのヒーローになり幕を下ろすのでした。
ちなみにタイカ・ワイティティが演じるアドルフがジョジョに蹴り飛ばされるシーンについて、
タイカ:「吹き飛ぶシーンは自分でやりたかったんだけど、トム・クルーズでもない限り怪我するからやめた方が良い」
とのことでやめたそうです。
●人をコケにするにはコメディが最良
本作は前述のとおり、ナチスの愚行を思い出させるために一定のスパンで作られるタイプの映画で、正直「またか。」と思ったものだけれど、タイカ・ワイティティのアウシュビッツの件を聞いて以来考えが変わりました。
継続するって大切ですな。
またナチスをおちょくったようなコメディでもあり、その理由は批判されるべき人間を辱める最良の方法がコメディだからで、古くはチャップリンの『独裁者』(40)、ジャック・ベニー出演の『生きるべきか死ぬべきか』(42)とそれをリメイクした『メル・ブルックスの大脱走』(83)、スティーヴン・スピルバーグの『インディー・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)、『わが教え子、ヒトラー』(08)などなど上げ出せばきりがないほどヒトラーはバカにされ続けている。
とりわけ小馬鹿にした演出で印象的だったのは、ゲシュタポがジョジョの家にやってきたとき、バカの一つ覚えなのかっつーくらいナチス式敬礼を一人一人丁寧にかわすシーン。
敬礼というある意味でナチを崇拝する者のアイコンとも呼べる行為をコケにすることで、狂信者をバッサリと否定しているように見えました。ちなみに同じギャグは『わが教え子、ヒトラー』(08)でも行われていて、こっちもやっぱり笑える。
また劇中で印象的なのは奥行きを極力殺したショットの数々で、これがもたらす効果は2つ。
1つ目は奥行きが無いことで、紙芝居や舞台のような印象になり、演劇なような作風になるので、本作の場合はコメディ感を助長してくれています。
同じようなフレームはウェス・アンダーソン作品に多く観られるほか、劇映画の中に政治映画を内包したジャン=リュック・ゴダール(ジガ・ヴェルトフ集団)の『万事快調』(72)にも観られます。
このように奥行きを出来る限り殺し、演劇っぽく魅せておきながらゲシュタポが現れた時やソ連とアメリカが攻めてきたときはしっかりと奥行きを描くことで、急に現実が迫ってきた感じがしますよな。
奥行きを殺すことで得るもう一つの効果は色彩かなーと。
背景を明確に作ることで、画面がパキっとカラフルになるんですよね。ホロコーストを扱ったような作品は往々にしてブリーチバイパスのような色彩が多く、どうしても暗くなりがちなんですけど、タイカ・ワイティティは「世界はカラフルだった」とこんな時代でも希望を感じるカラフルな色彩で表現していました。
スタッフ
- 監督:タイカ・ワイティティ
- 制作:カーシュ・ニール、タイカ・ワイティティ、チェルシー・ウィンスタンリー
- 制作総指揮:ケヴィン・ヴァン・トンプソン
- 原作:クリスティン・ルーネンズ
- 脚本:タイカ・ワイティティ
- 撮影:ミハイ・マライメア・Jr
- 編集:トム・イーグルス
- 音楽:マイケル・ジアッチーノ
キャスト
- ヨハネス・”ジョジョ”・ベッツラー:ローマン・グリフィン・デイヴィス
- エルサ・コール:トーマシン・マッケンジー
- ロージー・ベッツラー:スカーレット・ヨハンソン
- アドルフ・ヒトラー:タイカ・ワイティティ
- クレンツェンドルフ大尉:サム・ロックウェル
- フロイライン・ラーム:レベル・ウィルソン
- ディエルツ:スティーブン・マーチャント
- ヨーキー:アーチー・イェーツ