はいどうも。オレンチです。
人形って怖いよなー。ぬいぐるみは良いんだけど人形は怖い。
映画史を振り返ってみればよくわかるけど、人形というものは往々にして人に牙をむくもんな。
髪が伸びる人形もいれば、人を呪い殺す人形もいるし、ポポちゃん人形とかバービー人形とかリカちゃん人形とか、全く可愛いと思えないし、いずれ歩き出すと思っています。
と言うわけで今回は『チャイルド・プレイ』(88)評です。
感想・解説・考察
●魑魅魍魎なホラー界隈
トム・ホランド監督によって生み出された『チャイルド・プレイ』(88)は子供たちのお友達”グッドガイ人形”のチャッキーに凶悪犯の魂が乗り移り、殺戮のかぎりを繰り返すホラー映画で、本作のヒットにあやかって実に8作も制作されています。
そもそも70年代後半から90年代あたりまでの映画界は、兎にも角にもヒットしたホラー映画を大量生産することに命をかけておりまして、『エルム街の悪夢』シリーズは8作、『ヘルレイザー』シリーズは10作、『13日の金曜日』シリーズに至っては11作、スプラッター界隈の祖『ハロウィン』シリーズともなるとリブート版など様々なバージョンも含めると12作に。
追いきれんわ。
ただでさえ数が多いのに、途中で配給が変わってしまったことが原因で手に入りづらいものがあったり、2作目〜6作目を無かったことにして“正統続編”と訳のわからない銘打ち、これまでのことをなかったことにしたりと割とマジで専門家が必要なジャンルだったりします。
そして何を隠そうこの『チャイルド・プレイ』(88)は僕の超個人的トラウマ映画でして、小学生くらいだったかなー。午後ロー的なやつで観賞していたんですけど、終始恐れ慄きとあるシーンで臨界点を突破(後述します)。無事トラウマとして僕の心に芽生えました。
というわけで今回は己のトラウマと向き合ってみようかと思います。
●「なんだ。猫か。」理論
やはりトラウマはトラウマだった。
いきなり銃撃戦から幕を開け、逃げる凶悪犯に追う警官。
負傷した凶悪犯ことチャールズ・リー・レイは命からがら玩具屋に逃げ込むも、もう逃げられないと悟り怪しげな呪術で人気沸騰中”グッドガイ”人形に自身の魂を乗り移し絶命する。
どうでもいいけどこの玩具屋、人形多くね?僕にとっては玩具屋ではなく恐怖の館でしかなかったわけですが、凶悪犯役でチャッキーの声役の方、ブラッド・ドゥーリフだったんすなぁ。
『ロード・オブ・ザ ・リング/二つの塔』(02)のグリマ役で認知し、以来『エイリアン4』(97)や『プリースト』(11)などで脇役ながらも強烈な印象を残す彼。
下顎を少し突き出し下目遣いで魅せる絶妙な気持ち悪さがとってもクセになる俳優さんで好きです。
チャールズの魂が乗り移った人形はというと、シングルマザーのカレン・パークレイ(キャサリン・ヒックス)にホームレスから買い取られ、一人息子のアンディ・パークレイ(アレックス・ヴィンセント)に贈られます。
意気揚々とグッドガイ人形を取り出すアンディだったが・・・
グッドガイ人形デカくね?
こ、こ、こんなにデカかったっけ?頭のサイズがアンディと同じなんですが。
1/1サイズかなんかですか。こんなん家に合ったらそれだけで失神するわ。
ここからはというものトラウマワールド全開で、「いつ動くんだろう・・・。」「いつ話しかけてくるんだろう・・・。」と恐れ慄いておりました・・・。
トラウマはやはりトラウマなんだな〜と実感。ホラーでも『死霊館』(13)とか『ラ・ヨローナ』(19)とかは全然平気なのに、なんの変哲もない白昼のシーンでもなぜか恐怖を感じてしまう・・。
そういえば『ハロウィン』(78)評で映画監督の三宅隆太氏が提唱する「あなたジョン(犬)の様子が変なの」論というホラー映画における一種の文法を解説しましたが、こちらでは同じく三宅隆太氏が提唱する「なんだ。猫か」理論が組み込まれていました。
「なんだ。猫か」理論とは、物陰で物音を発生させ登場人物は恐る恐る近づき(サスペンス)、突然飛び出す猫に驚き(ショック)、「なんだ。猫か」と安心させた次の瞬間、本命のモンスターにアタックさせることでより大きなショックを与えるホラー映画の基本中の基本文法でございます。
仕事を押しつけられたカレンの代わりに子守を買って出たマギー(ダイナ・マノフ)は、アンディを寝かしつけた後、窓際に気配を感じ恐る恐る近づき(サスペンス)、意を決して花瓶をどかすとそこには何もいなく、安心したのも束の間、チャッキーに襲われ窓から落下し絶命してしまいます。
1回目のショックがないですが、これもれっきとした「なんだ。猫か。」理論でございます。
●トラウマを超えた日
トラウマはさておき、映画自体はよくできてるなーと。
その理由は脚本的な側面と、編集的な側面に分けられます。
脚本的側面に関連しますが、そもそも87分という尺がいいですね。
僕が尊敬する映画ブロガー、ふかづめさんの『IT/イット THE END“それ”が見えたら、終わり。』(19)評で「元来「ホラー演出」というものが運動を先延ばしすることで生じる無時間的な環境に退没する行為そのもの」というありがたい言葉が提言されていましたが、要するに「なんだ。猫か。」のサスペンス状態の時、映画に時間が流れていないんですよね。
ホラー映画というのはそういった時間空間の応酬なので、90分を超えてくるとこっちの身が持たないというわけです。
またチャッキーの「人間に戻る」という動機が、そのままアンディの危機になるため、映画の中の流れに身を任せやすいのかと思います。
チャッキーが人間に戻るためには、最初に正体をばらした相手─つまりアンディに魂を乗り移さなければならず、物語の後半は執拗にアンディを追います。
ついにアンディの家に戻ったチャッキーはここで人間たちと壮絶なバトルを繰り広げるわけですが、、、
ここからです。僕にトラウマを植え付けたのは。
ただえさえ燃ながら断末魔をあげるチャッキーで恐怖のどん底だったのに、ドロドロに溶けた状態でもやる気満々だし。
挙げ句倒したと思ったら通気口から・・・。
ココ。ここですよ。幼き頃の僕の精神が死んだのは。
編集的側面で言えば、生きる人形チャッキーを編集によって嘘臭さを消している点が素晴らしいと思います。
主観映像やカット割の応酬で粗を隠し、時に本物の人間がスーツアクターとして演じ、極め付けが背景のセットを一回り大きくすることで、中に人間が入っているバージョンのチャッキーのサイズ感を保っている点です。
チャッキーのサイズは映画を見ていく中で刷り込まれているので、他の登場人物さえ映らなければ背景のセットをいじるだけであっという間に本物っぽく見えるという寸法です。
ちなみにトラウマの件ですが、今回の鑑賞ですっかり消えました。
実際チャッキーが喋り出してからは、恐れる対象からただのキャラクターに変貌を遂げ、なんなら『レディ・プレイヤー・ワン』(18)におけるアイテムくらいに見えてました。
俺はトラウマを超えた。
そうそう本作のブルーレイには多くのバージョンのコメンタリー(音声解説)が収録されていまして、中でも気になるのがチャッキーによるコメンタリーです。
チャッキーが当時のことを振り返って解説してくれるのかな?ある意味『デッドプール』(16)的に第四の壁を壊していらっしゃることを期待してます。
近いうち見ると思うので気が向いたら追記します。
スタッフ
- 監督:トム・ホランド
- 制作:デヴィッド・カーシュナー
- 脚本:ドン・マンシーニ、ジョン・ラフィア
- 撮影:ビル・バトラー
- 編集:エドワード・ワーシルカ、ロイ・E・ピーターソン
- 音楽:ジョー・レンゼッティ
キャスト
- アンディ・バークレイ:アレックス・ヴィンセント
- カレン・バークレイ:キャサリン・ヒックス
- マイク・ノリス刑事:クリス・サランドン
- チャールズ・リー・レイ/チャッキー:ブラッド・ドゥーリフ
- マギー・ピーターソン:ダイナ・マノフ
- ジャック・サントス刑事:トミー・スワードロー
- アードモア博士:ジャック・コーヴィン
- ジョン・ビショップ:レイモンド・オリヴァー
- エディ・カプート:ニール・ジュントーリ
- ウォルター・クリスウェル:アラン・ワイルダー