『過去 現在 未来という区別は、主張の強い幻に過ぎない』
──アルベルト・アインシュタイン。
みなさんこんにちは!オレンチです!
今回は映画『メッセージ』について、シナリオ書き起こし解説・感想をやっていこうと思います。
この作品には、エイリアンの言語と時間の概念を利用した《SF的側面》と、それに伴った《問題提議的側面》があります。
とりわけ《問題提議的側面》は劇中から読み取ることが難しいので、今回はブルーレイの特典から原作者の思いを抽出して解説していきますね。
それでは作品紹介から行ってみましょう!
目次
作品情報
メッセージ
原題 :Arrival
上映時間:116分
制作年 :2016年
監督 :ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原題は『arrival』で直訳すると《到着》とか《来着》って意味みたいですね。
多くの作品が日本に入ってくるタイミングで、日本人にわかりやすくタイトルを変更され、頻繁に「この邦題どうかしている問題」が発生しているわけですが、
本作の『メッセージ』は近年稀に見る良い邦題なんじゃないでしょうか。
後々解説していきますが、物語の意味を壊さずにむしろ原題よりもその本質を捉えている良質なタイトルだと僕は思います。
逆に近年でトップクラスに「どうかしている邦題」は映画『ドリーム』でしたね。
「夢」ってタイトル自体、作品のテーマとすれ違いを起こしているにも関わらず、SNS上でも大いに問題になった「私たちのアポロ計画」事件がとにかくどうかしてましたね。
マーキュリー計画のバックヤードを描いた映画なのに、日本人が取っ付きやすいからという理由で「アポロ計画」などと安易なタイトルをつけてしまった事件です。
集客、つまりマーケティング的な施策だったと関係者言いますが、それ詐欺だからな。
脱線しちゃったので、キャスト紹介いきますw
キャスト
・エイミー・アダムス(ルイーズ・バンクス)
・ジェレミー・レナー(イアン・ドネリー)
・フォレスト・ウィテカー(ウェバー大佐)
エイミー・アダムスが良いいすね。
『魔法にかけられて』で初めて頭角を現した時は多分一発屋的な人だろうなと思ってましたが、続く『ザ・ファイター』や『マン・オブ・スティール』、特に『アメリカン・ハッスル』なんかで確実に演技派と言えるキャリアを積み上げてきましたよね。
頭がお花畑な役から田舎のヤンキーを演じたり、知的な役まで演じ分けたりと化ける女優さんだと思います。
『アメリカン・ハッスル』でイギリス訛りが消える瞬間とか凄かったですよね。
監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは最初から最後までエイミー・アダムス推しだったみたいです。
まずはキャスティング、見事です。
感想・評価・解説(ネタバレあり)
それではまず、感想・解説から語っていこうと思います。
強烈なオープニングで印象付け
まずはオープニングがなかなか強烈でした。
特にお子さんがいる方にはかなり強烈なオープニングだったんじゃないでしょうか?
僕も愛する二人の子供がいる身なため、無償の愛を感じる幸せな瞬間と、無慈悲な現実な瞬間を一気に味合わされた感覚でした。
しかもただの強烈なオープニングってだけではなく、本作のストーリーラインとテーマがぎゅっと凝縮されています。
本作のストーリーラインとテーマですが、冒頭でも説明した通り、
《SF的側面》:ストーリーライン
《問題提議的側面》:テーマ
となります。
それではそれぞれ分割してみていきましょう。
《物事の結末を知り、それを変えられないとわかった時、人はそれを受け入れることができるだろうか?また結末までどう行動するか?》ということだと思います。
『メッセージ』の《SF的側面》
これは至極SF的な部分、《時間の概念》ですね。
スペースオペラみたいに半分ファンタジーなSFでない限り、物語のサイエンスフィクションの部分をどれだけ科学的っぽく肯定し、観客を納得させるかが評価の分かれ目だと思います。
見出しでアインシュタインの言葉を引用した通り、普段我々が当然のように思っている、
『過去はすでに起きたことだ』
『未来はこれから起こることで現在の行動が左右する』
という、過去・現在・未来の概念は、普段の経験や意識の問題であって、これを物理学的に証明することは出来ないそうです。
ただ、これを本気で掘り下げようとすると、
相対性理論、変分原理、ビックバン、熱的死、エントロピー、etc これらを掘り下げないといけなくて……というか、僕は全く理解していないし、理解できる気もしませんw
平たく言うと、
時間は過去から未来へ”流れてしまう”川のようなものではなく、その場にある湖のようなものであり、前も後ろも、始まりも終わりも無い。ということを本作では言っています。
ただし上記で言った通り、普段の経験や意識から時間とは過去から未来へ流れてしまうものという考えが至極一般的です。
では、どのようにその意識を打破させるのでしょうか?
それは劇中で語られた《サピア=ウォーフの仮説》がヒントになっています。
もちろん僕はこの映画を見て初めて知りましたが思いっきり噛み砕くと、
話す言語が人の性格を決める
つまり、日本語を話す日本人は日本人っぽくなるし、英語を話すアメリカ人はアメリカ人っぽくなるし、イギリス訛りの英語を話すイギリス人はやっぱりイギリス人っぽくなる。
ということを言っています。
もちろん仮説であり、確かな証拠はありませんが、非常に興味深いです。
『指輪物語』で有名なJ・R・R・トールキンですが、あの世界観を作り出すためにまず、エルフやドワーフ達が使う言語を開発し、その言語に合わせて文化を作っていったみたいなことを聞いたことがあります。
本作ではルイーズがヘプタポット語を理解していく過程で彼らが捉える《時間の概念》を習得して行きます。
観客は強烈なオープニングによってルイーズは、心に傷を負った人物だと思い込んでいますから、娘との思い出がフラッシュバックのように蘇っているものだと錯覚させます。フラッシュバックには変わりないんですが、少しづつ未来が見えるようになっている演出だったとは…!
「この子は誰?」というセリフから全てが覆り、そして全てが繋がったあの瞬間。こういう瞬間のためにこういうSF観てるんだよなーと感じますw
時間の概念に対する細部へのこだわり
さらにヘプタポット達の《時間の概念》の表現の仕方がとにかく細部までこだわりが見えます。
まず彼らのビジュアル。
これ吹替版だと結構わかりやすくイアンが解説してくれているのですが、ヘプタポット達はタコのようなクラゲのような形をしているため、前と後ろの考え方がないそうです。(これに関しては、僕は表と裏があるように見てちゃってますがw)
そして彼らが扱う文字。
丸いっすよね。ヘプタポット語には我々人間が使う文字と違い、始まりと終わりがなく、どちらかというと絵に近い感じになっています。
で、驚きなのがこのヘプタポット語。
実際に意味を持たせて作ったそうで、劇中に登場する辞書みたいなものまで作ってありました。
さらにさらに驚きなのが、ルイーズやイアンが使っていた解析ソフト。
あれも本物で、言語解析アプリケーションを作り、実際に解析を行ったそうです!
こだわりがやばいっすね!
本作のBGMにもこだわりが見えます。
あの不思議と引き込まれるBGMは、同じテープに音ボーカリストが源を変えて重ねるように何度も何度も録音して作ったそうで、始まりも終わりもないことを表現しているそうです。
『メッセージ』の問題提議的側面
SFというフィルターを通して、本作が、観る人々に語りかけたかったこと。
本作が心を揺さぶるのは、
まだ見ぬ娘が、不治の病により自分よりも先にこの世を去ってしまう…。というあまりにも残酷な現実を受け入れ、あらゆる瞬間を大切にしていこうという”決意”が垣間見えるからですよね。
しかし、広い意味で原作者テッド・チャンはこう言います。
「ルイーズは未来を見ることができる。だが、広い意味では我々も同じと言える─。」
「我々は皆いずれ死ぬ。限りある命と向き合いながら日々を生きているんだ。」
人間である以上いずれ訪れる”死”という瞬間。
いずれ自分が無になってしまうとわかっていながら、その瞬間までに何を感じ、なにを残しますか?
そんなことが、本作が本当に送りたい《メッセージ》なのかもしれません。
シナリオ書き起こし解説
それでは今回もシナリオを僕なりに書き起こしましたので、三幕構成やミッドポイントを押さえた上で載せておきます!
参考までにどうぞ!
第一幕
家の中。窓から海が見える。
子供が生まれる。その子が幼児まで成長し、中むつましく母親と遊んでいる。
さらに成長し、反抗期へ。
不治の病が発覚。
闘病の甲斐も虚しく亡くなってしまう。
出産から悲劇まで、一気に描かれた強烈なオープニングですね。
時間は一直線上に進むものだと思っているので、当然娘を亡くした後の話だと感じます。
ルイーズの独白とともに場面は大学へ。
ルイーズは大学の講師で、言語の講義を行っている。
講義の最中、未確認飛行物体が地球に来着していることがわかる。
未確認飛行物体は全部で12機。地球の世界各国に来着していた。
家に帰ってきたルイーズは、一人暮らしで孤独にテレビの中継を見た後、床に着く。
ルイーズの孤独が孤独。ということをとことん演出されています。
翌日。
大学へ向かうも当然だれも来ていなく、一人自室でPCから未確認飛行物体の情報を見ていると、そこにウェバー大佐が現れる。
ウェバー大佐がボイスレコーダーを再生すると、エイリアンの声が録音されていた。
ウェバー大佐がルイーズの元にやってきた理由は、彼女にエイリアン語の翻訳を依頼するためだった。
翻訳するためには、直接コミュニケーションが必要だとルイーズが主張すると、ウェバー大佐はそれを拒否。結局翻訳の仕事は流れてしまう。
同日の夜。
ヘリコプターの轟音とともに、ウェバー大佐がルイーズの自宅へ。
適任者が見つからず、大佐側がルイーズが現地入りする条件を呑む。
ヘリコプター内部へ。
科学者、イアン・ドネリーと対面する。
ルイーズ著の本に「文明は言語から成り立つ」という書き出し。
宇宙船のことをシェルと呼ぶ。
現地に到着。
ヘリコプターと対象的にシェルの大きさを表現している。
第一幕では、主軸をなす3人の登場人物を紹介すること、および世界的に今起こっていることの説明に徹しています。
第二幕
医療キャンプにて、身体検査が行われる。
ルイーズが妊娠について質問される。
妊娠について聞かれた時、トラウマを抱えているはずにしては反応が薄いルイーズに注目してください。わざと表情が撮影されているかと思います。
これはミステリ的要素のヒントになっている部分です。
ブリーフィングルームへ。
18時間毎にシェルが開くなど、
1日のタイムスケジュールが提示される。
サイレンとともに滅菌室へ移動し、いよいよ準備を行う。
一行はシェル下へ到着。
シェル内部へと入っていくと重力が変わる。
大きな窓がある無機質な部屋に到着。すると窓の向こうから2人のエイリアンが現れる。
場面は滅菌室へ。
ファーストコンタクトでルイーズは何もできなかった様子がうかがえる。
ルイーズは研究室へ移動し、声の分析を行う。
一方でニュース映像が流され、世界中が徐々に不安に満ちていく姿が描写される。
18時間後。
滅菌室でホワイトボードを見つめるルイーズ。
先ほど行った声の分析から、会話でのコミニュケーションは不可能と断定し、文字でコミニュケーションを図ろうとする。
再度シェル内部へ。
ホワイトボードでのコミニュケーションに成功。エイリアンは墨なようなもので、サークル型の表意文字を書く。研究が前進する。
テントへと戻る。
文字でのコミニュケーションに可能性を感じたルイーズは、エイリアンと共通の語彙を増やすことで、さらなるコミニケーションを図る。
ニュースの映像。中国がエイリアン来着に対して否定的と報道している。
このように第二幕では、シェル内部→テントで研究→ニュース映像というルーティン的な構造になっていて、
それぞれ
シェル内部:新たな課題の発見
テントで研究:課題の解決(本作におけるカタルシス)
ニュース映像:クライマックスへの溜め
というシナリオ構造になっています。
再度シェル内部へ。
固有名詞を伝えるため、名前を教える。
その際、ルイーズが防護服を脱いでしまう。
エイリアンとのコミニュケーションが成功する。
テントへと戻る。
先ほど防護服を脱いだルイーズの行動に兵士が不満げに見る。
ルイーズがエイリアン文字の研究をしていると、子供の回想が入る。
エイリアンにへクタポットと名付けたことや、シェルの説明などがモンタージュされ、細かいディティールが観客に伝えられると同時に時間の経過を表している。
・前と後ろの概念がない
丘の上にイアンが一人黄昏ている。
そこにルイーズが現れ、お互い独身であることが告げられる。
へクタポット来着から25日目。
世界中でデモが行われ、緊張がピークに達していることがわかる。
このニュースを見て、兵士がさらに不満を覚える。
ルイーズが研究をしているとまたも子供の回想。どんどん回想の頻度が多くなる。
ここでサピア・ウォーフの定理が説明される。
(SF的要素の核心である)
再度シェル内部へ。
地球に来た目的が武器を与えるためだったことがわかる。
しかし、武器とは何か明示的には表現されない。(ミッドポイント)
当然武器についてキャンプで議論が行われる。
兵士の緊張はピークに達し、クーデターを起こすべくC4をシェル内部へ。
そこへルイーズとイアンが現れる。
ここで大量の表意文字がへクタポットから提示される。
2度目のセッションは初めてという会話から、二人が来ることが想定外だという暗示がされ、兵士たちが人間を殺すつもりはなかったという救済処置になっていますね。
C4が爆破し、イアンとルイーズは間一髪のところで助かる。
第三幕
場面は医療テントへ。
ルイーズが目を覚ますと世界中の状況は一変し、攻撃ムードに。
中国がトリガーとなっている。
爆破前に提示された大量の文字は、全体のメッセージの一部しかなく、読むためには世界中のデータが必要となる。
どのように世界中のデータを得るべきか作戦会議の最中、再びルイーズの回想へ。
娘に「win-winのかしこまった言葉とは?」と質問されるが、数学的な言葉なら父親に聞きなさいと返す。
再度会議のシーンへ。
世界中のデータを得るには、こちらのデータを開示すべきだという結論が出る。
この時、数学者であるイアンがwin-winのかしこまった言葉、ノンゼロサムゲームを口にする。
一気にルイーズにイメージが流れ込む。
その中に、シェルから迎えが来る・シェル内部のイメージがあった。
その後外へ。イメージ通り迎えが来て、シェル内部へ。
ここで武器とは未来を見る力だということがわかる。
全てを悟ったルイーズは未来を受け止める。
終わりに
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
僕はなんども鑑賞しましたが、最近ではかなり上質なSF作品だと思いますので、ぜひみなさんももう一度鑑賞してみてはいかがでしょうか!
それではまた!